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連載小説「六連星(むつらぼし)」第81話~85話

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 「手前、いたって不調法あげますことは、前後間違いましたら、
 お許しを蒙ります。
 手前、生国は、上毛の国は国定でござんす。
 手前、縁もちまして親分と発しまするは岡本一家二代目、岡本良太郎の
 若い者でござんす。
 姓名の儀、声高に発しまするは失礼さんにござんす。
 姓は国定、名は長次郎と申す、しがない駆け出しもんにござんす。
 行く末、お見知りおかれましてお取り立ての程、よろしく
 お願い申し上げます。」

 いきなり、やくざ丸出しの仁義を切りはじめる。
上毛(じょうもう)は群馬県のこと。国定(くにさだ)という地名は
侠客の国定忠治を産んだ伊勢崎市の長岡町の別称。
岡本良太郎はすでに皆さんがすでにご存じの、不良の岡本のフルネーム。

 「ヤクザの切る仁義とは、「人の踏み行うべき道」や「世間の義理、人情」
 と言う意味に当たります。
 ひろく、対外儀礼のことを指しておりやす。
 一口に仁義といっても、俗に渡世人の七仁義と呼ばれるほど奥が深い。
 初対面の挨拶として、儀礼化されておりやす。
 すなわち。
 ひとつ、伝達の仁義。ふたつ、大道の仁義。みっつ、初対面の仁義。
 4つ目が、一宿一飯の仁義。
 5つ目に、楽旅の仁義。6っつ目は急ぎ旅。
 早や旅の仁義とも呼ばれています。
 7つ目が、伊達別の仁義でござんす。
 これら「仁義」のことを、博徒仲間の間では、「チカヅキ」
 (近づきの仁義)、
 的屋仲間では「メンツー」(面通)とか
 「アイツキ(テキヤ用語、アイツキ仁義)」などと呼んでおりやす」

 「ようするにあたたちは、初対面の時から義と礼節を重んじているから、
 接待に関しては、何の心配もないと言いたいのでしょう」

 「おっ、さすがに小さい姐さんは、物わかりが早い。
 まさに、その通りでございます!」

 「それなら私にも、大好きな仁義が有るわ。
 私、生まれも育ちも葛飾柴又です。
 帝釈天(たいしゃくてん)で産湯(うぶゆ)をつかいました
 根っからの江戸っ子。
 姓は車(くるま)名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します。
 どう、これで、ちゃんと合っているのかしら」

 「流石なもんです。小さいほうの姐さん。
 そいつは「アイツキ仁義」と呼ばれるもので、的屋仲間で
 使われる挨拶にござんす。
 見かけによらず、小さいほうの姐さんも、任侠の素質があるように
 お見受けをいたしやした。
 素人にしておくのは、もったいないと思いやす。」

 「馬鹿なことを言わないで頂戴。
 どうでもいいけどあなたたち、口調まで、いつもの「です・ます」から
 仁義風の「ござんす」や、「でやす」に変わっているのは、どういう訳?
 あんたは見かけによらず、応用の利かない不器用タイプでしょう」

 「ご明察でござんす。察しの通りです。小さい姐さん・・・あいや、響さん。
 やくざの世界には、複雑なしきたりや儀礼が多すぎて、覚えるだけでも、
 四苦八苦をいたしやす。
 無駄話が長くなりやしたが、そろそろ仕事につかせていただきやす。
 それじゃ皆さん、まっぴらご免なすって!」

 「なんだかなぁ・・・
 そこだけは、少し活用方法が違うような気もしますけど・・・・」

 「すいやせん。小さい姐さん。
 修業中の身につき、そのあたりは大目に見てくだせえぇ。
 響ちゃん。・・・・頼むからそんな厳しい目で俺をいじめないでくれ。
 これでも俺らは目一杯やってんだぜ。
 岡本の親分からは、いつまでたっても進歩が無いって、
 いつも怒られているけど、さぁ・・・・」