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連載小説「六連星(むつらぼし)」第81話~85話

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 「おう、その通りだ。血統は大事だ。
 上州と言えば義理と人情を重んじる国だが、数多くの博徒を生み出している。
 上州は、博徒の国だ。
 群馬県を横切って、栃木県の小山まで行くJR両毛線は、
 ギャンブル列車として全国的に有名だ。
 始発駅の高崎には、地方競馬の高崎競馬が有った。
 残念ながら競馬場はだいぶ前に廃止になっちまったが、隣の前橋市には、
 ドームで覆われた前橋競輪場が有る。
 その東になる伊勢崎市には、これまた伊勢崎オートレース場が有る。
 そのさらに東には、忠治が眠る国定駅がある。
 それだけじゃ終わらねえぞ。
 隣の岩宿駅は、岩宿遺跡の駅としても名前を知られているが
 戦後まもなくから始まった地方公営ギャンブルの旗頭・桐生競艇場の
 玄関口して有名だ。
 ついでにいえばその東にある桐生市には、平和・三共・西陣といった、
 日本屈指のパチンコメ―カがひしめいている。
 もうひとつついでに言えば、県境を越えた足利市には、
 公営の足利競馬が有る。
 農業が目立っているド田舎の北関東に、これだけのギャンブル場が
 密集している。
 長年にわたり、博打うちと勝負師ばかりが住んでいる土地柄だ。
 そう言う意味で言えば、上州に生まれればみんな生まれついての、
 博徒のサラブレッドということになる」


 「乱暴な論法だけど、一理ありますねぇ。
 岡本のおっちやんの言い分には、妙な説得力が有るもの。うふふ。
 でも上州は、昔から、かかあ天下とからっ風と言うでしょう。
 それほどまで女性が強いというのに、男が博打ばかりをしているようでは、
 あっというまに、家庭が崩壊してしまいます。
 なぜ上州では、女性がそんなにも強い地位を占めているの?」


 「かかあ天下というのは、一般的な意味で言えば妻や女房どもが、
 実権を握っている家庭のことを指す。
 ようするに、亭主を尻の下に敷くと言うことだ。 
 群馬の『かかぁ天下』は、少しばかり込み入った事情がある。
 冬に吹き荒れる『からっ風』と、夏場の激しい『雷』と並んで上州の名物は、
 かかあ天下と言われている。
 しかし、すべてが女性上位という意味ではない。
 考古学の中に、そうした証がある。
 その昔。上毛野君形名(かみつけのきみ かたな)の妻が、
 かかあ天下の模範をしめした。
 形名は、朝廷の命令で東北方面へ出兵したが、東北の蝦夷軍に追い詰められ、
 弱腰になり、ついに敗戦が濃厚になったことが有る。
 そのとき、妻がおおいに酒を飲ませ、叱咤激励すると共に自らも弓を持ち、
 弦を鳴らすことで、全軍をふるいたたせたそうだ。
 相手に大軍が来たと錯覚させる機知を発揮して、手助けをした逸話が
 残っている。
 俗にいう『内助の功』というものだ。
 「かかぁ天下」は、上州の女性は働き者で、男をたてるという意味を
 含んでいる。
 かつての上州では、養蚕業が盛んだった。
 養蚕業では女性の仕事が多く、上州産の絹糸は質が良かった。
 生糸の名声が、世間に知れ渡ってたということも、
 また影響しているのだろう。
 上州の女は良く働き、女のおかげで潤っているから、『かかぁ天下』の
 国になったという説もなる。
 お前の母親、清子の生き方なんかは、そのお手本みたいなものだな」

 「お母さんが、かかあ天下のお手本ですか・・・?
 それっていったい、どういう意味?」

 「働き者で男をたてる。
 女の清純を、ひたすら守りぬく。
 今でもひとりの男をひたすら愛している清子の生きざまは、
 誰にも真似が出来ねぇ。
 めったにいない粋でいなせな女だぞ、お前さんの母親は。
 清純だとか、高潔などという倫理は、現代の女性の風俗から見れば、
 いまや、死語の世界だろうがね」

 「それって・・・・いまだに母は、
 俊彦さんにたいして、清純を尽くしていると言う意味なのですか?」

 「さぁてな。俺も、よくは知らん。
 だが俊彦も、それによく似たものを持っている。
 別の女と所帯を持ったというのに、わずか2年で離縁している。
 あいつの心の底に、清子への想いというやつが残っていたのかもしれないが、
 いまとなっては、誰にも解らねぇ・・・・
 お互いに機会を失ったまま、つかず離れず四半世紀。
 お前さんの年齢と同じだけの年月を、ああして、いまだにあの2人は、
 行き先が見つからず、小舟のように流されている。
 そんな男と女のつき合い方ってやつが、この世に有ってもいいだろう。
 あの2人のように、さ・・・・」