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連載小説「六連星(むつらぼし)」第81話~85話

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 「ねぇ、岡本のおっちゃん。
 その国定忠治って『赤城の山も今宵かぎり、可愛い子分のお前たちとも
 別れ別れになる定めだ・・』と語った、江戸時代末期の不良のことでしょう。
 姓が国定を名乗る長次郎君は、もしかしたら、その末裔にあたるのかしら?」

 「忠治の末裔に、馬鹿と阿呆は居ないはずだ。
 だが親子ともども昔から、博徒や侠客に心酔していたのは事実のようだ。
 親がつけた名前が、清水の次郎長にあやかって長次郎だ。
 生まれた時からそのまんま、博徒になるのが運命つけられたようなもんだ。
 苗字が国定で、下の名前が長次郎なら、この世界にはぴったりだ。
 こいつが今こうして不良の世界に居るのも、もとはといえば、
 名前を付けた、博徒好きのオヤジのせいだろう」

 養寿寺の参道は朝から降り始めた小雨のために、石畳が完全に濡れている。
うっかり気を抜くと、足元が滑ってしまいそうな気配がある。
最後尾を歩いていく清子は黒ずくめの凸凹コンビに、
完全に左右からガ―ドされている。
本人は傘をさしていない。左右から2つの傘が清子の身体を守っている。

 養寿寺は、江戸時代末期に名をあげた侠客・国定忠治の菩提寺だ。
北関東を縦走していくJR両毛線の国定駅から、北へほぼ1キロ。
閑静な田舎の一角に、忠治が眠る養寿寺が建っている。
歴史は古い。永保3年(1083)に開基したと寺のいわれの中に書いてある。

 もともとは天台宗の寺としてはじまった。
建てられた当初は、相応寺と称していたが、元禄年間になってから
現在の養寿寺に名称が変った。
畑と田んぼに囲まれている墓地の片隅に、上州を代表する江戸時代の博徒、
国定忠治の石碑と墓石が建っている。

 博徒でもあった国定忠治の墓石のカケラを所持していると、賭け事に
強くなるという言い伝えが有る。、
今でも根強く信じられているため、参詣者たちによって墓石が削り取られる。
初代の墓は、原型が分からないほど削り採られたという。
それを防ぐために、いまでは強固な鉄柵によって周囲がすべて
取り囲まれている。
境内には、国定忠治遺品館が建っている。
山門の手前で立ち止まった岡本が、濡れかけている響へ傘をさしかける。

 「おう、響。余り濡れるな。身体を冷やすと後でろくな事がねぇ。
 ろくなことがねえと言えば、長次郎のオヤジも手のつけられない不良だった。
 問題はやっぱり、産んだオヤジにあったようだ。
 オヤジの名前は、国定の栄五郎と言う。
 お前さんは知らないだろうが、国定忠治の時代の前に赤城山一帯をおさめた
 大親分の、大前田(おおまえだ)栄五郎という博徒が居た。
 こいつが若い頃の忠治をたいそう気にいって、新田義貞が産まれた新田郡へ、
 博徒修業に出したと言う、有名な話がある。
 長次郎のオヤジは、大前田栄五郎の末裔だと自ら名乗っていやがる。
 親子ともども、こいつらはれっきとした博徒の家系だ。
 まぁ、いうなれば、名前だけは博徒界のサラブレッドだな・・・・」

 「へぇぇ・・・・博徒にも、サラブレッドの血統が有るの?」