流星群
「コンペイトウ食べた?」
「食べたんだけど、ひと粒転がったまま見つからないんだ」
「あの星かもにゃん」
「そっかぁ? たぶん部屋に落っこちているさ」
「じゃあ星をひとつ作る」
そういうとキミは掌を一瞬開いて見せると、握っていたものを空に投げた。
弧を描いて落ちていくのだろうけれど、その放物線の終点など見えない。あたかも空に届いたように感じた。今のはコンペイトウだよね。
「来るとき見つけたから、星にしたにゃん」
「そりゃ凄いな」
「はい、あーん」
「え?なに? まさか星を食べろって?」
「はい、あーん」
袋にはいったコンペイトウをひと粒ボクの口に入れた。
ガシガシただ甘いだけの砂糖の塊。トゲトゲした角が舌に新しい感触。
素敵な天体ショー。
夏の夜空に瞬き消えていく流星群に何故 人は願いをかけるんだろう。
そんなことを思っていたボクだけど、やっぱりそうしたくなる不思議な光景だった。
車に戻ったキミは、まだ瞼に流星の残光を見ているような視点の定まらないくりくりの目をしていた。エンジンをかけた音に驚いたのか 腰かけた脚に乗せていたコンペイトウの袋が開いて中身がバラバラっとキミのスカートや車内に零れ落ちた。
此処にも色とりどりの甘い流星群。
キミの「にゃん」の魔法でなんとかならないのかな。
箒星に跨って夜空を駆け巡り ボクに夢を叶える魔法をかけにきておくれ。
帰り道、車中で居眠りしているキミの手元にひと粒のコンペイトウ。
ただそれだけなのに……。
夜空の流星群よりも輝いて見えた。
― 了 ―