連載小説「六連星(むつらぼし)」 第76話~80話
混乱をよそに行われた説明会で、経産省の柳澤副大臣は
『おおい町の皆さんには、本当にご心配とご迷惑をおかけしましたことを、
心からおわびを申し上げたいと思います』と述べました。
詰めかけた町民550人を前に、柳澤経産副大臣は、
大飯原発の安全性を強調したうえで、再稼働への理解を求めました。
その後、集会に参加をした町民たちは口々に、
『もっと、住民の命を守るということを真剣に考えていただければ、
(大飯原発の)再稼働に賛成でございます」。
という賛成の意見もあれば、一方で『福島第1原発は、絶対に安全です、
事故は決して起こりません。
そのように言い切って運営してきたものが、あのような事故の実態です。
いくら安全だといわれても福島の例が有る限り、絶対はありえない』
などと本音を漏らしています。
再稼働に賛成する意見や、安全神話が崩壊した今、
再稼働を不安視する声が交錯した質疑応答は、55分間にわたって
行われました。
全部で8人の町民が意見を述べたそうです。
説明会後に感想を聞いてみると、町民は「きょう、このことだけで、
おおい町のことを判断してもらうと、ちょっと早計すぎるとちゃうかな」、
「おおい町には、もう働くところが原発しかないんです。原発がなくなると、
もう(他に)働くところがないので」などと話しています。
記事によれば、場内には賛成派だけで、反対している人たちはどうやら、
最初から排除されていたようです。
「説明会を主催する政府サイドが、
反対派を排除するというのは、使い慣れた常套手段です。
『やらせ』とはいいませんが、ほぼそれに近い状態での集会だったようです。
非常時だと言うのに、政府や電力会社の見識を疑いたくなるような
ニュースですねぇ」
山本の感想に、響が素直にうなずく。
『この夏。電力が20%近くも不足をしそうだという関西圏での
反応は、微妙です。
その辺もからんで、記事の後半では各自治体の動向について書いています。
続けて読んでもいいでしょうかと新聞から目を上げて、響が山本を見つめる。
問いに応えて、山本も軽くうなずく。
「依然(再稼働にたいして)着地点が見えない、大飯原発の
再稼働のニュースです。
関西電力は4月26日、関西の知事や市長たちへ、
この夏の電力需給の見通しについて説明を行ないました。
関西電力の香川次朗副社長は『他社融通は、現状では目いっぱいの状況です。
それから、夜は電力が余っているというふうなご指摘での、
もっと活用方法が、というのがありましたが、夜の調達というのは、
慨に目いっぱいやっております』と話しています。
これに対して滋賀県の嘉田知事は
『言い方は悪いんですが、だだっ子のように「できない、できない」ばっかり
言っているように思えてしょうがないんです。
突破するための、企業としての戦略はお持ちではないんでしょうか」
と述べています。
厳しい発言を浴びせる知事たちの一方で、
原発再稼働に真っ向から反対していた大阪市の橋下市長から、
意外な提案がありました。
橋下市長は『もしこれ、再稼働を認めなければ、応分の負担がありますよ
ということで、インセンティブ、すなわち僕は増税ということも検討に、
具体策を立てなきゃいけないのかというふうに思いまして」と述べています。
橋下市長は、再稼働をしなかった場合、
自家発電を行う企業への燃料費補助などで、関西の住民に月およそ
1,000円から2,000円の負担が必要になると指摘しています。
橋下市長は、『府県民の皆さんに負担をお願いします。
それが無理だったら、もう原発の再稼働をやるしかないと思います」
と述べている。
それぞれの思いが交錯する大飯原発の再稼働の問題は、
電力の消費がピークを迎える夏場を前にして、ヒートアップをはじめました。
有効な結論が出ないまま、原発事故から2度目の夏は、
刻一刻と迫っている・・・・」
そこまで読んだ響が、新聞記事を締めくくる。
山本が入院をしている3階の病室の窓から、夏の気配が濃厚になってきた
桐生の市街地が望める。
3.11から2度目となる夏を迎える日本列島は、すべてが停止した原発を
かかえたまま、再びの、猛烈な暑さを迎えようとしている・・・・
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」 第76話~80話 作家名:落合順平