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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第76話~80話

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 いつものように抑揚をおさえた口調で、朝刊の読み上げがはじまる。
病気の影響からか、それとも薬による副作用なのか、最近の山本は
視力が落ちている。
細かい文字のほとんどを、読みとる事が出来ない。
神経耳に集中させながら、山本が静かにお茶をすする。

 「北海道電力は25日。全国で唯一稼働をしている泊原発3号機
 (出力91.2万キロワット)を、
 5月5日午後11時ごろまでに停止をさせ、定期検査に入ると発表した。
 現在のところ、政府が進めている関西電力大飯原発3、4号機の早期再稼働は
 困難な情勢でこのために、国内における50基の原発は全て
 停止することになる。
 北電によると、5月5日午後5時ごろから3号機の出力を低下させ、
 同11時ごろに発電が完全に止まり、3時間後の6日午前2時ごろに
 原子炉が停止して、冷温停止は7日午後になる見通しだと、明らかにした。


  前回は東日本大震災直前の昨年3月7日に、定検の最終段階の
 「調整運転」として再稼働を始め、そのまま発電を開始した。
 4月6日に定検終了にあたる「営業運転」への移行を予定していたが
 東京電力福島第1原発の事故のために、安全性の確認や地元同意の
 取り付けに時間がかかり、本格化は、8月17日にまでずれ込んだ。
 原子炉の定検は、原則13カ月以内に1回の実施が義務づけられている。
 北電は当初4月下旬を予定していたが、ぎりぎりとなる5月5日まで、
 原子炉の停止を引き延ばした。
 北電は『他の発電所が停止した場合のリスク回避や、化石燃料の
 消費抑制のため』などとその理由を説明している」

 響はできるだけゆっくりと、新聞記事を読みあげていく。
茶碗を口元に運び、軽くお茶を含んだ山本が満足そうに頷いている。

 「これで全国に50基ある全ての原発が、停止する見通しになりました。
 この結果。稼働ゼロにしたくなかった経済界と政府の思惑は、
 あてが外れます。
 大飯原発を、泊原発の停止の前に再稼働をさせようという目論見は、
 間に合わなくなったようです。
 2つ目のニュースは、その大飯原発の再稼働の記事になります」


 響が手元から、もう一つの新聞を取り上げる。
「同じく4月27日付けの朝日新聞の紙面です。」そう言うと椅子の位置をずらす。
山本に寄り添うような形になるまで、そっとベッドへ近寄る。
響がそうした行動をとるときは、『これは長い記事です』という事前のサインになる。
山本もそれを充分に承知している。
背もたれに寄りかかると、静かに目を閉じていく。


 「夏の電力需要期を前に、関西電力の
 大飯原発3・4号機の再稼働をめぐる調整がヒートアップしています。
 政府による住民説明会では、場外が大荒れとなりました。
 そうした一方で橋下大阪市長から、増税のサプライズ発言がありました。
 今日の大飯原発を巡る一つの記事の中に、ふたつのニュースが
 混在しています。
 まず、大飯原発の地元住民への説明会のニュースから読み上げます。
 26日夜。関西電力の大飯原発3・4号機の再稼働をめぐって開かれた地元住民を
 対象にした説明会の会場の外で、もみ合いが起こりました。
 反対派の人々が警察のバリケードを突き破り、乱入しようとしたことで、
 警察と市民団体の間で怒号などが飛び交いました。
 町外から来た再稼働に反対する人々が、会場に入れるよう求めたことが
 騒ぎの発端です。