小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」 第76話~80話

INDEX|2ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 


 「なんだ。着物の価値も解らずに着ているのか、君って子は。
 驚いたねぇ。無知にも限度がある。
 先練りと先染めの高級絹織物のことを、御召物(おめしもの)と呼ぶ。
 粋と渋みをほどよく合わせ持った、上品な着物のことだ。
 からだによく馴染み、裾さばきがよいが、湿気に弱いという欠点がある。
 水に濡れると布地が縮むという特性をもっているからだ。
 だが今の時代で、これほどのものは珍しい。
 経済産業省が指定をする、伝統的工芸品の逸品に相当する品だ。
 君はその価値も知らずに、袖を通しているのかい。
 君の無頓着ぶりのほうが、俺にしてみれば衝撃な事実だ」


 「二部式の着物を着はじめましたと、母に電話で報告したら
 何着か、古い着物を仕立て直して、私に届けてくれました。
 『あなたの今の技量では、帯を結ぶのは無理だから、
 外部からは見えないところで、紐で結ぶように細工をしておきました』
 と言って、先日、届けてくれたもののひとつです。
 これは、それほどに、高価なものなのですか・・・・」


 「俺の実家は、桐生織の機屋(はたや)だ。
 ガキのころから、織物や反物に囲まれて育った。
 詳しいことは解らんが、どこにでもある代物ではないようだ。
 そうか。芸者をしている清ちゃんの着物か・・・・
 湯西川の芸者は昔からきっぷが良いときいているが、桐生お召しの逸品を
 二部式着物に作り変えてしまうとは、恐れ入ったねぇ。
 上下に別れているとはいえ、帯を締めれば普通の着物のようにも見える、
 というわけか」


 「はい。
 帯の締め方も、覚えるようにと母からは言われています。
 着物は着こんで肌になじむほど、その価値があらわれてくるそうです。
 勿体ないなどと考えず、日常で着なさいと言われています。
 汚れて痛んでも、バラバラにして洗えば、再生できると言われました。
 洋服には真似の出来ない、着物が持っている優れた特性のひとつだそうです。
 安心して着こんできましたが、先生の話を聞いていたら、
 なんだか、汗が出てきました・・・・」


 『そんなことは無いさ』と、杉原医師が響の全身を嬉しそうに眺め回す。
その目には、どこか懐かしいものを見つめているそんな雰囲気が滲んでいる。


 「それにしても、君はずいぶんと綺麗な身体の線をしているんだねぇ。
 あの頃の・・・・芸者になりたての頃の清ちゃんの、
 なんともいえない匂いたつような色気を、
 彷彿とさせるものがあるねぇ・・・・
 いずれアヤメか、カキツバタという言葉が有るが、こうして見ていると
 若かりし頃の清ちゃんに、久し振りに再会しているような気分にも
 なるから、不思議だね」

 「先生ったら、お口が上手すぎます。
 あまりほめられると、響の顔から火が出てしまいます」