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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第76話~80話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第76話
 「桐生お召し」


 「おっ、今日も来たね。二部式着物のナイチンゲール君」

 山本が3階にある一般病棟へ移ってから、一週間。
どういう訳か、響がそこへ向かう廊下で、毎日のように杉原医師と
顔を合わせる。
救急外来を受け持っている杉原医師は、進出鬼没に病院内を動き回る。
じっとしているのが、嫌いな性格なのだ。


 暇さえあれば、数日前に救急外来でやってきた患者の病室を訪ねる。
しばらく歓談をしていたかと思えば、休憩時間で雑談中の看護士たちのもとへ、
お菓子やせんべいを手土産に、ひょっこりと顔を出す。
今日も禁煙パイプを口くわえた杉原が、響が着用している二部式着物に
興味を示す。
上から下まで、丹念に観察したあげく驚嘆の声を上げる。


 「おっ、やっぱりそうだ。
 今日の着物はすこぶるつきの、きわめての上物だ。
 光沢と色合いは、どう見ても、一級品といえる桐生織だな。
 出来の良い『桐生御召(おめし)』というやつだ。
 驚いたなぁ。二部式の着物といえば、リーズナブルなはずなのに、
 今時は、こんな高価な生地を使っているのか。
 それとも君は、贅沢が出来る、きわめて良家の娘さんなのかな?
 いずれにしても、これはすこぶるの高級品だ・・・・
 君には、とても良く似合っている」

 「え?、高級品なのですか。この生地は」