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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第76話~80話

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 でも・・・本当の私は実は、とても臆病です。
 自分から甘える事が出来ないのです。
 可愛い女の子を演じようとしても、父親というものを知らないために、
 甘える学習が欠落しています。
 男性に接するたび、常に不器用で臆病になっている私が居ます。
 ほんとは・・・・素敵な彼が出来ることを心の底から欲しているんです。
 私はまだ、自分を解放する事ができていません・・・・
 あら、いきなり愚痴になってしまいました、とんでもない脱線ですねぇ!
 ごめんなさい。急いで本題に戻ります。

 東北の被災地で、たくさんの素敵な出会いが有りました。
 3.11で甚大な被害を受けた石巻市を訪ねた時、日赤病院の看護士さんで
 荻原浩子さんという女性と出会いました。
 被災直後の石巻で、救護に走り回った体験談を聞くことが出来ました。
 震災直後の被災地の生活は、私の想像を遥かに超えるものがあります。
 浩子さんたちは諦めることなく、限られた条件の中で知恵を絞り、
 さまざまな工夫をしながら、献身的に活動しました。
 看護をつうじて、柔らかい笑顔に癒された人たちが沢山いたと思います。
 過労から健康を損ねて療養中ということでしたが、それでも充分なまでに
 私にも、素敵な笑顔をプレゼントしてくれました。


 共同でブログを書くきっかけをつくってくれた川崎亜希子さん。
 立ち入り禁止区域に位置していながら、再生を目指している広野という町を
 私に教えてくれました。
 広野町で行き会ったかえでさんは、原発と対峙しながら生きていました。
 緊張した最前線の様子を、私につぶさに見せてくれました。
 なによりも・・・・私を元気にさせて、その気にさせてくれたのは
 たぶん、トシさんの背中だと思います」


 「トシさんの背中ですか?それは、どういう意味でしょう。
 よかったら、そのあたりの『立ち入ったお話』も、ぜひきかせてください」


 響が、次の言葉を探しはじめる・・・・確信が揺れているからだ。
俊彦が父親であると言う可能性は濃厚だ。
だが、現時点ではまだ、父親とは言い切れない部分も残っている。
響の生い立ちの中で、一度だけ父親と思われる男性との思い出が残っている。


 響が3歳になった頃のことだ。
初夏を迎えた湯西川温泉で、その出来事が発生した。
たった一度だけだが、響は父親に抱かれたかすかな記憶が残っている。
しかし。いくら思い出そうとしても、父親の顔は浮かんでこない。
周囲もまた、それが父親だとは教えてくれない。
それでも父親だと思いこんでいるのは、単なる響の直感かもしれません。

 熱い日差しに晒された、湯西川のバス停での出来事だった。
父親と思われる男性から、ソフトクリームを買ってもらった思い出が有る。
父親に抱っこされたまま、それを食べていた、淡い映像が脳裏に残っている。
走り去っていくバスの後部座席から、手を振る父の残像も残っている。
響もそれに応えて、大きく手を振った記憶が有る。
しかし、いくら思い出そうとしても、やはりあの日の父の顔だけが
浮かんでこない。
霧の奥へかすんでしまい、今でも霞がかかったままだ。


 「響さんが家出をした原因の一つが、父親探しだと聞きました」

 響の長い沈黙を破るように、少し困ったような顔を向けてきた。


 「ここからは、私の独り言です。戯言だと思って聞き流してください。
 あなたの笑顔に、ずいぶん癒されました。
 2部式の着物を着て病室に来てくれるあなたの気持ちが、心に沁みています。
 私は、最良で最善の末路を迎えることができる、
 幸せな病人だと思っています。
 ここへ入院した、翌日の夜のことでした・・・・
 トシさんからひとつの、重大な話を聞かされました。
 私に余計な気がねをさせないために、あえて苦しい事実を、
 打ち明けてしまったのだと思います。
 『かけがえのない俺の娘だから、遠慮しないで安心して世話になってくれ』
 と、トシさんから聞かされました。
 微妙で、難しいいきさつについても、ぜんぶ説明してくれました。
 気分を悪くしないでください、響さん。
 トシさんに、悪気はないのです。
 わたしを安心させたいために、そのことばかりを考えて苦悩した挙句、
 打ち明けてくれたのだと思います」

 
 (やっぱり。そうだったんだ!・・・・)