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鐘の音が聞こえる

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 テレビではまたテノール歌手が歌い始めていた。

「そうか……この夜が君の幸せなんだ」
「うん。私はこうして浩平と一緒にいられれば幸せ。他には何もいらない。明日なんて来なくていい」

 記憶に刻まれた優しい眼差しの彼。
 それが私の幸せの全て。

「それなら、なんで君はずっと泣いているの?」
「えっ……?」

 自分の顔を触ると、確かに私は笑顔のまま涙を流していた。

「僕には君が幸せそうには見えない」

 そう呟いた彼の顔を見ることはできなかった。

「……馬鹿みたい。さっき自分で言ったのに。死んじゃった人には感情なんてないって。自分で勝手に作り出した嘘っぱちの幸せに逃げ込んでいるんだよね」
「……」
「でもね、それでも私は良かった。浩平のいない現実よりはずっとマシだったから」


 だけど、もう私には聞こえていたんだ。

 
 今日の終わりと明日の始まりを告げる鐘の音が。


作品名:鐘の音が聞こえる 作家名:大橋零人