鐘の音が聞こえる
「……死んじゃった人がさあ、お星さまになるなんてナンセンスだよね」
「そうかい? 僕は分かる気がするけどなあ。もちろん実際に星になっているわけじゃないだろうけどさ、亡くなった人を大切に感じている人には見えるんだと思うよ」
彼の言いたいことは分かる。故人を想いながら夜空を見上げた者の心の中に存在しているということだろう。
「でも、その存在は過去の記憶でしょ? 現在進行形じゃない。死んじゃった後にどんな出来事が起きようが新しい感情が生まれることはないんだよ」
「その考え方はちょっと寂しいなあ」
「死んだ人には喜びも悲しみも無い。だって、死んじゃったんだもん」
「……」
彼が少し困った顔をしたので私はこの話を止めた。彼の笑顔だけが私の願いなのだから。
また、私達は年越し蕎麦をすすりながら穏やかな時間を過ごしていた。
「もうすぐ除夜の鐘が鳴るね」
新たな年が訪れるのを楽しみにしているような口調で彼が告げる。
「鐘は鳴らないよ」
私は彼を静かに見つめ返した。
「だって、この夜が私にとって 幸せ そのものなんだから」