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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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犬と探偵たち(仮)

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 看守のアッシュは緊張しているのか、渇いた唇を舐めた。モカたちは頑丈な南京錠がぶら下がるドアの前で立ち止まる。屋敷の一番奥にあたるこの部屋は、さながら隠し部屋の様相を呈していた。アッシュの持つ鍵束で何とかここまでこれたが、もちろんこの南京錠の鍵はついていない。
「こんな事したくないな。すぐにでもここから逃げたい」
 レイチェルは震え声だ。無理もない、せっかく牢屋から出れたというのに今度は泥棒の手伝いをさせられてるのだから。
「震えているのか。まあ無理もない。ここの家主、ジャスティスはお前たちみたいな子供の脳みそをここで改造しているんだ」
「改造?」
 きょとんとした顔でベロニカが聞き返す。
「つまり、お前たちは実験体ってことさ。今まで何人の子供たちが死んでいったか分からん。でも、それに耐えて生き残った子供たちは高値で売られて行く。そしてその金を宝石に替えて貯めこんでるって寸法さ」
「なるほどね。――じゃあ、そんなヤツには罰を与えないといけないわね。ねえ、ちょっとまたそれ貸してくれる?」
 モカはさっき牢屋の鍵を開けるのに使った真鍮の針金を、ベロニカの髪止めから抜き取った。
「おい、おまえまさか……そんなもので牢屋の鍵を開けたって言うのか?」
 アッシュは驚いた顔でモカの手元を見つめている。
「大きいけれど仕組みは同じよ。まあ見てなさいって」
 かちっ!
 しばらくすると、南京錠から乾いた音が響いた。
「開いたわ。じゃあ後はまかせるわね」
 錆びた音と共に頑丈なドアが開く。部屋の中では燭台の灯りでゆらゆらと彼らの影が踊り出す。数歩ほど歩くと奥に小部屋があり、そこに文字通り宝箱のようなものが見えた。
アッシュを先頭に三歩ほど歩いた時だった。
 突然、モカたちの目の前からアッシュの姿が消えた。いや、正確には床が割れて穴に吸い込まれたのだが。
「なっ!」
 悲鳴を上げる間もなく、アッシュは落とし穴の底で串刺しになっていた。操り人形のように不自然な体勢で目だけが丸く見開かれている。やがて見る見るその眼から光が失われ、口元から血の筋が糸を引いていく。
「ひ、ひいいい!」
「しっ! 声を出しちゃダメよ!」
Oの字に開かれたレイチェルの口を押えると、モカが鋭く言い放った。そしてベロニカとレイチェルを同時に引き寄せ、守るように抱きしめる。
そう、これは歓迎されない侵入者のためにジャスティスが仕掛けた卑劣な罠だったのだ。
「アッシュさんには気の毒だけど、ここにはもう用はないわね。あの宝箱の周りにも罠が仕掛けられてるかもしれないし」
 ベロニカのいう事はもっともだった。何せその精巧な装飾の入った宝箱は胡散臭いほどの無警戒さを醸し出しているのだ。しかも鍵さえもかかってないように見える。
「いえ、逆に宝石は必要よ。いざとなったら取り引きに使えるじゃない。ちょっと待ってて、私が取ってくるから。あ、ちょっと待って……今何か犬の遠吠えが聞こえなかった? 何となくナタリーの声に似ているような」
「いいえ、何にも聞こえなかったわよ。それより早くここから出ましょう!」
 レイチェルの手を引いて立たせると、ベロニカは元来たドアに向かって歩き出そうとする。しかし、やはりモカが心配なのか、振り返るとその背中を目で追う。
アッシュの悲惨な亡骸を見下ろすと目を閉じ、胸元で十字を切ると宝箱に向かってモカは足を踏み出した。
 拍子抜けするほど、それは簡単に開いた。罠も仕掛けられていないようだ。中には几帳面にびっしりと宝飾品が詰まっていた。その中央にある、中でもひときわ大きな赤い宝石のはまった首飾りが彼女の目を引く。
「これがアッシュさんの言ってた『女王の涙』ってヤツね。なるほどね、他とは輝きが違うような気がする」
 ずっしりと重い首飾りを首にかけると、モカは宝石箱を閉じた。現在の価値に直すと一億円以上の値がつく代物だ。
「わあ、お姉ちゃんきれーい!」
 さっきとはうって変わってレイチェルが目をきらきらさせながらモカに近づく。どうしてもそれに触ってみたいようだ。
「あなたがこれをつけてていいわよ。でもちょっと重いかしら」
レイチェルの首に『女王の涙』をかけると、モカはにっこりと笑った。
「じゃあここを出るわよ。私について来て!」
 元通り南京錠に鍵を掛けると、モカたちは本来の目的、そう、ここを脱出するという目的に向かって本当の一歩を踏み出した。

 第十四章

 絶体絶命のナタリーには、この時たったひとつだけチャンスが残されていた。それは、バケツをひっくり返したような雨とともに鳴りだした雷だ。この時、男と、追い詰められたナタリーの距離はもう三メートルもなかった。雷鳴が鳴り響く中、男の指が引き金を引こうとした瞬間!
 ひときわ大きな稲光が曇天の空から放たれ、空に金色の絵の具でジグザグに殴り書きしたような軌跡と共に屋敷の裏に落下する。スッと伸びた鼻づらから歯を剥き出しながら、ナタリーは横っ飛びに身体を躱す。慌てた様子の男から放たれた銃弾は、ぬかるんだ土に吸い込まれて瞬く間にすり鉢状の穴を作る。
「ちっ、俺も腕が鈍ったかな。まあ、この天気じゃしょうがない。それに万が一お前たちに雷が当たると、身体にどんな変化が起こる分からん。よし、屋敷に戻るぞ!」
 足場の悪さをものともせずに走り去っていくナタリーを憎々しげに睨み付け、教官は踵を返した。その後ろを息一つ切らせていない少年たちがついて行く。

(やっとあきらめたようね。あれ、この匂い。……あの子だわ。モカの匂い。そう、優しい匂い)
 ナタリーは暗がりに身をひそめ、そう思っているかのようにその鼻をヒクヒクと動かした。滝のような雨が降る中、わずかであったが、モカの匂いが屋敷の窓から漂っているようだ。そのまま数分じっとしていたが、突然立ち上がると毛皮についた水滴をぶるぶると振り払う。そして懐かしい匂いのする方向へと脇目もふらずに走り出した。
 屋敷の少し高い所に、開け放した明り取りの窓が見える。ナタリーは花壇を上手く利用して駆け上がり、躊躇なくそこに飛び込んで行った。

「あれは?」
 正面からひたひたと小さな黒い影がモカたちに近づいて来る。やがてその正体に気づいたモカの顔に満面の笑顔が広がっていった。
「やだ、ナタリーじゃない! どうやってここまできたの? こんなにびしょ濡れになって……。ってことは先生も来てるってことね」
 今やナタリーも喜びを隠そうとしなかった。モカに飛びつくと、その顔を嬉しそうにぺろぺろと舐めまわす。
「この子がさっき言ってたナタリーちゃんね。お利口そうな顔ねえ」
 ベロニカもしゃがみこんでその身体を撫でまわす。レイチェルは少し犬が怖い様子で、離れた所からそれを見守っていた。
「そうだ、こんな所でのんびりしている暇はないわね。じゃあ、心強い仲間が増えたところで出口を探しに行きましょう。ナタリー、先生はどこにいるの?」
 彼女の言葉を理解したのか、ナタリーは鼻をヒクヒクとまた動かす。そして床に鼻をこするように歩き出した。
作品名:犬と探偵たち(仮) 作家名:かざぐるま