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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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犬と探偵たち(仮)

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「居ます。これから私は地下に行って生存者を連れてきますので、先に彼女たちを逃がして下さい」
「なるほど。そこから出ろ、アーロン。くれぐれもモカくんたちを頼むぞ。ロイくん、私も一緒に行こう」
 そう言うが早いか、警部は煙に巻かれつつある大広間の大窓に向かって椅子を投げつける。そこから冷えた空気が入った瞬間、部屋の中の煙が勢いづく。
「先導してくれ。ところでロイくん、この屋敷の主は見たかね?」
 身をかがめて地下牢に急ぐロイの背中に警部が声を投げつける。
「逃げました。恐らく、ここに火を放ったのは彼です。しかし、警部。ここは私にまかせて下さい。警部はアーロンの手助けを」
「……分かった。生きて帰ってこいよ!」
 地下牢はまだ火の手が回っていないようだ。
「来てくれたんですね! ほらあ、やっぱりこの人は約束を守るっていったじゃない」
 三人の少女たちが手を叩きあって喜んでいる。
「よし、君たちはかけっこが得意か? 今まで一番早く走る姿をボクに見せてくれ」
 片目をつむり、ロイが少女たちに微笑みかける。
「うん!」
 ついには地下牢まで煙が降りてきたようだ。少し咳き込みながら一行は廊下を走る。
 その時!
 グルルルルル……。
 煙の中から筋肉の塊が突然現われた。少女たちはたまらず悲鳴を上げ、ロイの背中に隠れる。
「おいおい、モンク。まさか、『自分だけは特別だよ』なーんて事は言わないよな」
 呆れた顔で怪物を見つめる。だが、ロイのその眼は次の手を探すように素早く動いていた。煙は濃くなり、もう少しすると唯一の正面にある逃げ道に火の手が回ってしまうだろう。これは彼らにとって絶体絶命のピンチだった。
「いいか、ボクがヤツの注意を逸らすから、君たちは一等賞を取るつもりで全力で走り抜けろ。決して後ろを振り向かずにだ」
 小さな声で後ろの少女たちに指示を出すと、ポケットから先ほど拾った拳銃を取り出しすた。彼の眼は、あと一発しか残っていない弾倉に注がれている。しかし、拳銃があったとしても、こんなものではとてもこの怪物には勝てるとは思えない。
「さあ、化け物。かかってこい!」
 その言葉に弾かれたようにモンクが跳躍する。それに照準を合わせるようにロイの腕が上がって行く。
「今だ、思いっきり走れ!」
 少女たちが最後に聞いたのは、ロイのはっきりしたその言葉だった。

「警部、あれを見て下さい!」
 しばらくすると、バンパー警部たちが出てきた大きな窓から少女たちが三人飛び出してきた。庭でへたり込んでいるモカや、他の少女たちの顔にも安堵感が広がる。そして、まるでそれを待っていたかのように屋敷は激しく燃え上がり始めた。舞い上がる火炎が雨をものともせず勢いを増しいく。
「良かった。これで全員か? 君たちケガはないか?」
「は、はい。でも、中に私たちを助けに来てくれたおじさんが……まだ」
 バンパー警部の言葉に、息を切らせながら少女の一人が答える。
「先生! じゃあ先生はまだ中に?」
 悲鳴のような声が少し生暖かくなった空気を鋭く切り裂いた。モカだ。折られた腕をぶらあんと下げながら、建物に近づこうとふらふらと立ち上がり歩き出す。
「止まれ、モカくん! もう……手遅れだ」
 その言葉の後、顔を手で覆ったままアーロンの膝が崩れ落ちる。
「いやあああああああ!」
 それを最後にモカの悲鳴はぴたりと止まった。どうやら彼女はそのまま気を失ってしまったようだ。
「ロイ……。ああ、何てことだ」
 肩を落とす警部のコートを、灰の混ざった雨がしとしとと濡らしていく。
「警部。これで何もかもが白紙になってしまったかもしれませんね。人身売買の証拠も」
 その時、アンジェリカがアーロンのズボンの裾を引っ張りながらこう呟いた。
「おじさん、あのロイって人。きっと助かるわよね」
「そうだな。彼ならきっと……」
 広い庭の一カ所に肩を寄せる様に集まった人々の眼には、深い悲しみと、燃え盛る屋敷の炎だけが映りこんでいた。
「もうすぐ応援と消化班が駆けつけるだろう。よし、怪我人を病院へ運ぼう。ところで……さっきこんな遅い時間に『ビッグベル』が鳴ったような気がしたんだが、アーロンくん。君も聞いたかね?」
 少し納得がいかないような顔でアーロンを見つめる。
「ええ。もしあれが本当にビッグベルの音だとしたら……今頃みんなベッドから飛び起きているでしょうね」
 燃え上がる屋敷の熱で背中を暖めながら何度も、そう何度も、一行は後ろを振り返るのを止めなかった。
 
 
 エピローグ

「先生、ちょっと散歩行ってきていいですかあ」
 腕を包帯で吊ったままのモカが、書き物をしているロイの横に立っていた。
「ケガは大丈夫なのかい? 若いから治りが早いとはいえ、あれから毎日散歩しているじゃないか」
 手を止めたロイは心配そうにモカの眼を見つめる。それに少し照れた様子で、彼女はそっと眼をそらした。その姿は、まるで大好きな人に見つめられ赤くなっている少女のようだ。
「だ、大丈夫ですよ。じゃ、いってきまああっす!」
 風のように事務所のドアを開けて飛び出して行こうとしているモカの様子を見て、ロイはふっと優しく頬を緩めた。モカのケガをしていない方の手には、友人から譲り受け晴れてこの家の犬となったナタリーのリードが握られていた。今日も尻尾をぶんぶんと振って、なんとも元気そうだ。
「やれやれ。あんな怖い目にあったって言うのに、最近の若者は。いや、あの娘が特別なのかな」
 またクスっと笑うと、書き物に向かった。
「ロイくん、いるかな?」
 ノックもせずにドアが開くと、ぬっとバンバー警部が姿を現した。
「あのう、いつも言ってますがノックぐらいして下さいよ」
「ああ、悪い悪い。今日は大事な話があって来たんだ」
 全く悪びれる様子も無く、ずかずかと家に上がり込むとロイの対面の椅子に座った。
「で、大事な話って何でしょう」
「実は……。正式にあの宝石の鑑定をした結果、時価数億というとんでもない価値がある石だと分かった。しかし、持ち主がいなくなってしまった今、その所有権で少し揉めてるんだ」
「やはりとんでもない価値がありましたか。で、揉めてるというと?」
「最後に宝石が辿り着いたのはミカエル神父さまの所だ。教会はそれを『寄付』としてありがたく受け取ろうとしている。しかし、庭の死体から判明したあの屋敷の悪行が世に出た今となっては、死んでしまった子供達の親がそれを許さないんだ。ベロニカやアンジェリカ、そしてレイチェルの親御さんも精神的、肉体的苦痛を負った子供を治療したいと言い出している。やはり、いくらかのお金は欲しいんだろう」
 太い指でとんとんと机を叩く。
「まあ、それは無理もないでしょうね。失った代償はあまりにも大きすぎますから」
「ああ。で、ここからが大事な話なんだ。元はと言えば、あの宝石を最初に手にしていたのは君の所のモカくんなんだって? 彼女が奪わなかったら、元々この話は無かったことだろう」
「そうなりますね。屋敷の主が居ない今、所有権は彼女って考え方もありえます」
「でだ。教会もその事を気にしていて、モカくんの許可が欲しいと言ってきているんだ」
作品名:犬と探偵たち(仮) 作家名:かざぐるま