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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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犬と探偵たち(仮)

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 神父は肩にかけた黒いショールを外すと、クレアに渡す。
「ハーン先生ですね。知っています。では行ってきます、神父さま」
 少年は頷いた後、ドアを勢いよく開け駆け足で冷たい雨の中を走り出した。
「うまく行くといいですね。ところで、このペンダントは一体誰の物なのでしょう」
 女性のクレアにとっては非常に気になる問題なのだろう。
「それは分かりませんが、この勇気のある犬が持って来たということは、必ず意味があるはずです。鐘を鳴らせばきっとおのずと答えが見つかるでしょう」
 クレアはゆっくりと頷くと、ナタリーの身体を優しくそれに包んだ。その姿を見守りながらミカエル神父はそっと呟く。
「全ては……神の御心のままに」
 
 第二十章

 屋敷ではまだモンクが暴れまわっていた。敵味方区別なく、じゃれついてはまた離れてを繰り返す。その首の後ろに小さな装置をつけたまま。そしてその装置は少年たちの首の後ろにも同じようにつけられていた。
「いいかげんにしろ、モンク!」
 ジャスティスは少年たちに守られつつ、部屋の隅に陣取りながら大声を上げる。しかし制御が効くような怪物なら、もともと檻になど入れられてはいないだろう。一方、ロイとモカ、それに少女たちは今や絶体絶命だった。じりじりと監督の拳銃に追い詰められていく。
「いいかモカ、ボクが注意を引きつけるからその隙にあのドアから逃げるんだ」
 ロイは素早く状況を判断しながら一番いい方法を画策しているようだ。
「でも、先生。ドアの前には少年たちがいます。いくら先生でもあの人数は無理です!」
 その時になってやっとモンクは『攻撃していい対象』が理解できたようだった。暴れ回るのを止めた怪物は、まっすぐに向かって来てロイを突き飛ばす。そしてモカを押し倒すと、その怪力にまかせて彼女の腕を力任せに引きちぎろうとする。
「いやあああ!!」
 モカの悲鳴にロイは素早く起き上がりモンクを羽交い絞めにしようと後ろから飛び掛かったが……。振り向きざまの拳に頬をしたたかに殴られてしまう。
「ぐううう!」
 ぐるんと頭が横を向いたまま壁まで吹き飛ばされた。
「はあーはっは! 今から残酷ショーが始まるぞう! やれ、モンク。一人残らず殺してしまえ」
 ジャスティスは悪魔じみた笑い声を上げながら、椅子を立て直し満足そうに座り直した。その声にモカに向き直ったモンクが、彼女の細い腕を再び捻り上げる。その痛みにモカの顔は苦痛に歪み、悲鳴が部屋中に響く。
「いい声だ。どうだ? 私の宝石に手をかけた報いは」
「そ……その宝石は子供たちを売って買った物でしょう? あんた達にはきっと神様から罰が下るわ。わああああ!!」
 ごきっ!
 嫌な音をたててモカの左腕が折れた。そして今度はその足を掴み、力を込める。
「やめてえええ!」
 その声にロイは倒れていた身体を少し起こしたが、脳震盪を起こしているのか全く立ち上がる事ができなかった。
 その時だ。
 信じられない音が外から聞こえてきた。この時間に絶対に聞こるはずのない音だった。
 音の正体――それは『ビッグベル』の威厳の籠った音色だった。毎日正午にしか鳴らないはずの鐘が、こんな夜更けに街中に高らかに鳴り響いたのだ。ジャスティスと監督は信じられないという表情で顔を見合わせた。
「バ、バカな。あの鐘が鳴ったらこいつらは。しかしなぜこんな時間に?」
 やがて、その言葉どおり少年たちはその場で崩れ落ちて行く。そう、この音は首の装置のメンテナンスの合図だった。
「おい、立ち上がれ! まだこいつらにトドメをさしてないぞ」
 監督は混乱していた。そう、少年たちの力があったこそ彼はその力を誇示できていたのだ。ついには拳銃を床に置いて少年の一人を揺さぶる。
 すると――その拳銃を拾い上げる小さな手があった。ベロニカだ。彼女はそれを構えると、躊躇することなく監督の頭に向けて発射した。反動で拳銃の銃口が天井を向く。
「……ベロニカ?」
 活動を止めたモンクの重い身体から這い出たモカは、腕の痛みも忘れた顔でポカーンと口を開けている。
「こいつら……コイツらのせいで妹はあんなケガをしたのよ。許せない。絶対に許せない!」
 そう言うと頭を抱えてその場に蹲った。
「どうやら、あんた一人になっちゃったようだね」
 いつの間にかロイがふらふらと立ち上がり、ベロニカが落とした拳銃を拾い上げていた。そしてその銃口をジャスティスに向ける。
「よせ、命だけは助けてくれ! この屋敷にある宝石は全部おまえらにくれてやるから」
 椅子から転げ落ちたジャスティスは、床に伏せながら両手を合わせた。
「宝石? ボクはそんな物が欲しくてここに来た訳じゃないよ。ただこの娘を助けたかっただけだ。だが……君たちの仲間がボクの大切な助手の腕を折った。その報いだけは受けてもらう」
 モカはこの時、こんなに怒りに燃えたロイの眼を見た事は無いような顔で、目を見開きながらロイの表情を見ていた。
「頼む、許してくれ。私は実験をしたかっただけなんだ。元はと言うと、ある探偵事務所から流れて来た脳の改造に関係する書物を読んだ時、悪魔が、そう、その時に悪魔が私に憑りついてしまったんだ」
 手を合わせて頭を下げるその姿からは、暴君だった頃のジャスティスは想像できない。
「探偵事務所だって?」
 ロイの眉毛がぴくりと動く。
「そうだ。一八七二年の九月に起こった事件だ。なんでもその事務所の人間が、二人無残にも刺殺されたらしい。知ってるか?」
「……ああ、知ってるよ。その時殺されたのはボクのよく知る人物、ジェイミーとエイダだ。その書物の他に、犯人は何を盗んで行ったか聞いているか?」
「聞いた話によると、ある王族の罪を綴ったノートがあったらしいが……詳しいことは分からない。ただ、私は珍しい書物を集める収集家だっただけなんだ。許してくれ」
「そうか。……もういい、どこにでも行け」
 ジャスティスが出て行った後も、ロイは悲しい顔をしてその場に立ちすくんでいた。
「先生、何か匂いませんか?」
 片手を押さえたままモカが彼に近づく。
「ああ、何か燃えているような匂いがするな。まさか――あいつ」
 そう、部屋から出たジャスティスが屋敷に火をつけたのだ。この事件を無かったことにするつもりなのだろうか。ロイは床に倒れているモンクと少年たちに一瞬目を移したが、首を振りながら次のように叫んだ。
「急いでこの屋敷から脱出するぞ! ベロニカは足を撃たれた娘を、アンジェリカはモカを支えてやってくれ。私は地下牢に閉じ込められている少女たちを助けた後に行く!」
「はい!」
 返事をするが早いか、モカに肩を貸して彼女たちは部屋を出て行く。いま煙は細く天井を這っているが、すぐに廊下を覆い尽くすだろう。
「おーい、誰かいるかあ!」
 大広間に出た時に、聞きなれた声が聞こえた。煙の合間に見えたのは、バンバー警部とその助手、アーロンの姿だ。
「バンバー警部、ここです! ケガ人がいるので手を貸して下さい」
「おお、ロイくん。やはりここにいたのか。他に生存者は?」
 バンバー警部が大声を上げる。一瞬遅れてモカの姿を見つけた天然パーマの痩せた若者が彼女に一目散に駆け寄って行く。
作品名:犬と探偵たち(仮) 作家名:かざぐるま