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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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犬と探偵たち(仮)

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「どうした?――おい、何だおまえらは? どこから入った!」
 そこに立っていたのは……。探偵ロイと、女の子、そして今や数億以上の価値がある犬一匹だった。
「先生! やっぱり来てくれたんですね?」
 モカの眼には涙がたまり、その身体はぶるぶると震えだした。今までこのチームのリーダーとして気を張っていたのが、ロイの登場で解けてしまったに違いない。
「モカ。ボクが来たからには、もう大丈夫だからな」
「もう大丈夫……なわけ、あるかあああああ!!」
 目に怒りの炎をたぎらせて、ジャスティスの猟銃が火を噴く。幸運にもそれは当たらなかったが、その銃声を聞きつけた屋敷の部下たちが、続々とこの部屋に結集しようとしていた。おまけに銃声に興奮したのか、モンクが奇声をあげながら檻の中をぐるぐると回り出した。蹲るレイチェルの頭の上を何度も飛越し、ベロニカについに体当たりをする。ベロニカは反対の鉄格子まで吹っ飛ぶと、そのまま気を失ってしまった。
 ロイは焦りながら弾を込めているジャスティスに素早く近づくと、正確に当て身をくらわせた。そして次の瞬間、まるでマジックのようにその手に猟銃を持っていた。
「動くな。ここの鍵はどこにある?」
 呻き声をあげながら出口の方に後ずさると、机の引き出しを指差した。ロイが引き出しを開けている隙にジャスティスはぱっと立ち上がり、部屋を飛び出していく。その姿を見ていたアンジェリカがイーっと舌を出す。そして倒れている姉の姿を確認すると、目に涙を浮かべながら鉄格子に駆け寄って行く。
「待ってろ、今開けるからな。しかし、何だその化け物は。まるで筋肉の塊じゃないか」
 幸いなことに、当のモンクは唸り声を上げ続けるナタリーと鉄格子越しに睨み合っている。今がチャンスだった。
「先生、せんせいいいい!」
 鍵が開くとモカはロイの胸に一直線に飛び込んできた。
「モカ、よくみんなを守ったな。偉いぞ」
 その頭を撫でると、檻に入って行く。まずレイチェルを檻の外に運び出した後、次にベロニカに近づく。その瞬間にロイの肩に衝撃が走った。モンクがその怪力で力任せにロイを殴りつけたのだ。
「ぐっ、こいつ何て力だ」
 その衝撃で猟銃も檻の隅に転がって行った。膝をつくロイにモンクが次の一撃を加えようと近づいた瞬間、茶色い閃光が薄暗い鉄格子の中を走る!
 ナタリーだ。素早く檻の中に飛び込むと、床を蹴り上げモンクの腕にその鋭い牙を突き立てる。
「先生、今よ! そこから出て」
 ロイは自由な方の腕でベロニカを抱え上げると、檻から飛び出した。そしてすぐに扉を閉めたが、心配そうな顔で檻の中を振り返った。ナタリーが戦っているいま、このままナタリーを閉じ込めておく訳にはいかないという風に。
「あの化け物を何とか止める方法は無いものか」
 すると、はっとした顔をしながらモカはポケットから実験室から持ち帰った紙を取り出す。
「先生、これがヒントになるかもしれないです」
 手渡された紙に目を通すと、もう一度反射的にナタリーを振り返った。素早さではモンクに少しも負けていないようだが、じりじりと檻の隅に追い詰められていく様子が見て取れる。そして、おもむろにポケットから手帳を取り出すとさらさらと何かを書き込んだ。
「よし、これでいい。だがまず、ナタリーを檻から出さないといけない。ボクがまた檻に入るから、その隙に」
 その時、ドアが開きすっと光が差し込んだ。
「そこまでだ。死にたくなかったら動くなよ」
 監督の登場だった。後ろに屈強な少年たちを引き連れ、その手には今度は拳銃が握られている。
「こんな所にねずみが集まっていたとはな。おや? そこでモンクと戦ってるのは死んだはずの犬コロじゃないか。どうにもしぶといな」
 最悪だった。もし監督から逃げられたとしても、あの少年たちからはとてもじゃないが逃げられないだろう。
「モカ、檻の扉を開け放て。モンクとナタリーを外に出すんだ」
 頷くと、ロイの身体の蔭を利用しながら下がりそっと扉を開けた。その小さな音を聞きつけたのか、ナタリーが扉からさっと飛び出して来る。その後に続き、モンクが唸り声を上げながらゆっくりとした歩調で追いかけてくる。その顔はまるで“遊び相手を見つけた”というように歯をむき出しにして笑っているように見える。
「ここはすぐにパニックになる。ナタリーの首輪にこれを。おや? あいつの首に何か光るものが」
 戦いの途中で飛び出たのか、留めてあった『女王の涙』がぶらあんとナタリーの首にぶら下がって光を放っていた。
「モカ、あれは?」
「あのペンダントは、ここの主が一番大切にしている宝石なの。時価数億以上よ。ひょっとしてここで交渉に使えるかも」
「いや、もう交渉できる状態じゃない。これも……ナタリーの首輪に括り付けてくれないか」
 ロイが渡したのはさっき書き込んだメモだった。モカはそれを細長く折ると、傍でモンクを威嚇しているナタリーの首輪に素早く縛り付ける。
「何をごちゃごちゃやってるんだ。本当に撃つぞ」
 顔を真っ赤にした監督は今にも手にした拳銃を撃ちそうだ。
「ああ、ごめん。でもちょっとその前にボクと話をしないか?」
 時間を稼いでいるのか、ゆっくりとした口調で監督に話しかける。
「話すことなど何もない。おまえたちはゆっくりとその檻に入るんだ。もうすぐジャスティス様がじきじきにおまえたちの処分を決めるだろう」
 だが、余裕の態度はここまでだった。ようやく檻から出たモンクは初めての広い場所に興奮したのか、きょろきょろと周りを見廻した後――ところ構わず走りだした。監督の後ろの少年たちにあっという間に近づいたと思うと、一人の少年にじゃれるように飛び掛かる。ひょっとしたら、『やっと自分の仲間に会えた』と思ったのかもしれない。
「うわ! だ、誰かこいつを押さえつけろ!」
 監督の命令で少年たちが一斉にモンクに飛び掛かるが、その力を持ってしても彼を止めることはなかなか難しいようだ。一人、また一人と壁に吹っ飛ばされていく。
 その隙にロイはナタリーの視線まで屈みこむと、目を見ながら次のように語りかけた。
「いいか、おまえは走って街まで辿り着くんだ。この手紙を誰かに見せてくれ」
 始めはきょとんとした顔をしていたが、やがてその言葉が通じたのかナタリーの眼は出口をまっすぐに見つめた。今にも床を蹴って飛び出しそうなほどに、その身体はエネルギーの塊のように熱くなっているようだ。血だらけの身体の、どこにそんなパワーが残っていたのだろう。混乱した部屋の隙間を塗って、首に宝石の光をまといながら、ついにナタリーは部屋から飛び出した。
「おい、今の犬の首を見たか? あれは『女王の涙』だ。あいつを捕まえろ! 絶対に外に出すな!」
 今到着したばかりのジャスティスの足の間を縫って、ナタリーは弾丸のように疾走して行く。その言葉を受けて、三人の少年が素早く立ち上がるとナタリーを追いかける。それはやはり人間離れしたとんでもないスピードだった。
作品名:犬と探偵たち(仮) 作家名:かざぐるま