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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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犬と探偵たち(仮)

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 やがてのっそりと姿を現したそれは、まるで筋肉の化け物のようだった。背丈はモカと同じくらいだが、血管が浮き出た腕と太い首、そして一番の特徴はその顔にあった。その眼は血走り、何かを憎んでいるように怒った表情をしている。さっきまで肉か何かを食べていたのか、口の周りは血だらけで尖った犬歯には肉の切れ端が引っ掛かっていた。
「きゃあああ!」
 その姿を見てたまらずレイチェルが声を上げる。
「しっ、静かに。刺激しちゃダメよ。目を合わせないようにして距離をとるわよ」
 ゆっくりと下がる三人の姿を認めた瞬間、モンクは首を捻った。きっと生きた人間がこの檻に入ったのは初めてなのだろう。
「え?」
 それは一瞬だった。人間とは思えないような速さでモカの前にモンクが近づくと、その太い腕で彼女の片腕を掴む。そして真っ赤な眼を近づけ、何やら観察を始める。
「ああああ……」
 掴まれた腕の痛さを忘れたように、口をぽかんと開け目の前の怪物を見つめている。モンクは彼女の頭の匂いをまず嗅ぐと、耳、首筋と犬のように匂いを嗅ぎ始める。モカにとってはきっと恐怖以外の何ものでもなかったに違いない。
「放して!」
 その言葉を聞いた瞬間、モンクはモカを掴んでいた手をあっさりと放した。そして元来た方向にすごすごと帰っていく。
 がちゃり!
 その時、ドアが開く音がした。入って来たのはジャスティスだ。
「おいおい、せっかくおもちゃを入れてやったのに遊ばないのか?」
 少し不満げな顔で鉄格子を覗き込む。
「ちょっと、あれ何よ! 私たちをここから出して!」
 鉄格子に近づくと、ベロニカが小さな声で抗議する。
「バカ言うな。お前たちがバラバラにされるのを見る楽しみが無くなるじゃないか。たぶん、あいつはまだ腹がいっぱいなんだろう。では、今夜はメシを抜いてみようかな」
 ニヤリと笑うと、手に持ったワインの瓶をゆらゆらと揺らした。
「バラバラって……この人でなし!」
 腰に手を当てて凄い眼でジャスティスを睨んだ。
「二人ともちょっと耳を貸して」
 モカは二人を呼び寄せると、奥の暗闇に引っ込んだ。
「聞いて。うまくいけば私たち助かるかも。いい?」
 その様子を目をこらして見ていたジャスティスは、檻の前の椅子にゆったりと座るとワインのコルクを抜いてグラスに注いだ。これからゆっくりと時間をかけて楽しいショーを見物するつもりなのだろう。
「分かったわ、やってみる価値はあるわね」
 三人が頷くと同時に、暗闇の中でモンクが再び動き出す気配がした。 
 
 第十八章
 
「警部、どうやらこの屋敷のようですね」
 アーロンが近くの浮浪者風の老人から聞き込みを終えて帰って来た。
「そうか。他に何か言ってたか?」
「ロイさんに風貌が似ている人が、この屋敷の事を聞いていたそうです。他に犬と女の子も見たそうです。応援を呼びますか?」
「いや、まだ早い。しかし……女の子? 犬はたぶんナタリーだと思うが」
 バンバー警部は首を傾げると、くわえていた煙草を地面でもみ消した。

 一方、屋敷の中ではロイとアンジェリカが再び厨房の前に立っていた。
「戻って来ちゃったな。ってことは、ひょっとしてここの住人は犬を食べるのか?」
 嫌悪感がその表情に現れる。
「早く助けないと! まだ生きてるかもしれないし」
 頷くとロイはまた厨房のドアをそっと開けた。
「先生、あそこ!」
 アンジェリカの指さす方向に、縄で縛られたナタリーがいた。どうやらそれを外そうと低いうなり声をあげながら身体をよじっているようだ。ロイは駆け寄って縄を外すと、ナタリーはよろよろと立ち上がり、その顔をぺろっと舐めた。
「良かった、骨は折れていないようだ。歩けるか?」
 その言葉に応える様に、ナタリーは身体をぶるっと震わせると、クァァァと息を吐きながら嬉しそうに伸びをした。
「よし、反撃開始だ! この屋敷の造りは大体分かった。モカはたぶん一番奥のエリアのどこかにいるはずだ」
「うん、犬にもこんなひどいことをするやつらなんて、絶対に許さないんだから」
 厨房にあった白いタオルを頭にしっかりと巻くと、アンジェリカは口元を固く結んでロイに続いて部屋を後にした。

 その頃、モンクの牢屋ではモカが交渉の場に立っていた。
「おじさん、『女王の涙』ってペンダント知ってる? あれとっても綺麗よね」
 その言葉に、優雅にワインを傾けるジャスティスの手が止まった。
「……なぜおまえらがそんなこと知っているんだ?」
「だって、それ“私たちが持ってる”から。あ、正確には持っていたんだけど」
「なんだって? あれは宝物庫にまだあるはずだ。看守が盗みに入ったが、彼は死んだ」
 ワインをテーブルに戻すと、モカの前に歩み寄る。
「例えば、もしその看守さんと私たちが、一緒に行動していたとしたら?」
 イタズラっぽい顔をしながら鉄格子をトントンと指で叩く。
「バカな。いや……待てよ」
 くるっと踵を返すと、今までの優雅な身のこなしが台無しになるような足取りで、慌ててて部屋から飛び出して行く。そして五分ほどすると、息を切らせながらチャドと共に戻って来た。チャドの手には猟銃が握られている。
「おい、宝石はどこにある? あれは私の一番大切なコレクションなんだ! 言わないと一人ずつここから撃ち殺していくぞ」
 チャドから猟銃を手渡されたジャスティスの眼は本気だった。
「いいの? 私たちを殺したら一生見つからないわよ。この広い屋敷で、何十年も発見されないままかもしれないのよ。こう見えても私は探偵のはしくれだから、本気で隠したら絶対に見つからないわ。分かったらここから早く出しなさい!」
 モカの後ろでは、モンクがあくびをしながら退屈そうにこのやりとりを見つめていた。だが、腹が減ってきたら、急にスイッチが入ったようにいつ凶暴化するかも分からない。
「ほう? だが、おまえらを殺した後、この屋敷ごとバラバラにして探すって手もあるんだぞ。あの『女王の涙』にはそれくらいの価値があるんだ。早く言わないと……」
 銃声が響いた。
「きゃあ!」
 声がする方にモカが振り返ると、レイチェルの太ももから血が出ていた。銃弾がかすったのだろうか、痛そうにその場に蹲る。
「レイチェル! 大丈夫?」
「分かっただろう? 早く言え」
 しばらく沈黙が続く。
「ナタリーの首輪よ。その内側に隠して留めてあるわ! もうやめて、ここから出してよ!」
 突然、レイチェルが恐怖に負けたように金切り声をあげた。モカとベロニカも顔を見合わせる。彼女たちはレイチェルが服の中にそれを隠していると思っていたようだ。いつの間にそんな所に『女王の涙』を隠したのだろうか。
「ナタリー? ……あの犬っころか? おい、あの犬は今どこにいる?」
 驚いた顔のジャスティスはチャドを振り返ると、彼を責める様に大声を上げる。
「はっ、縛り上げて厨房に転がしてありますが」
「すぐに見てこい!」
「はい!」
 しかし、何故かチャドは扉の前で立ち止まって動かない。
「何をしている、早く行け」
 しかし、チャドはそれに答えなかった。その代り腹を押さえ、膝をその場で折ると崩れ落ちる。
作品名:犬と探偵たち(仮) 作家名:かざぐるま