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みやこたまち
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novelistID. 50004
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そののちのこと(無間奈落)

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 直接君とあいまみえることになった多田一郎はね、これまでのお返しをしようとした。さんざん、君の物語の中で虐げられてきたのだ。やっとこちらから仕掛ける番だとね。罠は、君のお粗末な物語の中から適当につぎはぎしてね。そうやって出来たのがあの列車の場面さ。君はこれまでに、もっと矛盾した、もっとご都合主義な物語を受け入れてしまっていたから、あんな急場こしらえのシーンでも、受け入れざるをえなかったのさ。それほど君は病んでいるのだ。ここへ来てからの君は、みっともなかったよ。私が誰だか分からないまま闇雲に…」
 男は口ごもった。信夫が涙の乾いた顔で男を見上げたせいだった。「先生」と信男は力なく呼びかけていた。白衣の男は冷静さを取り戻すように呼吸を整えた。信男は白衣の男の足に取りすがって自分の体を引きずりながら少しずつ、男の体を這い登ってこようとしていた。男は人格崩壊時の最後の抵抗に備えて体制を整えた。「先生。先生」と信男は繰り返しつぶやきながら、さらに男の体を這い登ってきた。やがて、信男の手が男の腰に引っかかると、懸垂をするように、ぐいと、信男は体を引きずり上げた。信男の顔が男の胸にぶつかった。男は恐怖を感じた。しかし、すぐに冷静にならなければいけないと思い直した。隙を見せてはいけないのだと、何度も言い聞かせた。