小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

月のあなた 下(3/4)

INDEX|10ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

 わたしが今見ているものは夢かもしれないけど、きっと夢でしか、幻想でしかないけれど、今、わたしにできることは、ほんとうに泣いて震えているだけなの?

「!」

 目の前に、今も脈々と流れる、その紅い糸があった。
 蜜柑は迷わずそれを掴んだ。
痛みをこらえ、引き抜こうとすると、白い石の周りを覆う、ごく薄いガラスの鉢の様な物が浮き出てくる。紅い糸は、肺血管のようにその鉢につながっていた。
 たぶん、これが無ければ、この狼は。
 蜜柑は拳を固めた。

 狼は、一瞬でその意図を読み取った。

「娘、死ぬぞ――」

 そして、その瞳に宿っている光を見て、口をつぐんだ。

「それがなに?」

 美しい少女の瞳だった。

 “ねえ、老い知らず――わたし、あの人に決めた。”

 決意した乙女の持つ瞳だった。
 そのために、男たちが死ぬところの輝き。
 神がこの世で造り給うた、最高の美のひとつ。
 人の意志と言う名の、それは砂漠にさえ咲き誇る華だった。

 少女が固めた拳を振り上げる。

 そのヒステリックな動作さえ、威厳に満ちて。
 彼はもう、それを止めるすべを持たなかった。
 それを見るために、それが愛しくて。
 自分はむかし、“老い知らず”になったのだ。

「それがなに?」
 言った瞬間、狼男は躊躇ったようだった。何故かは分からなかった。
 でも押し切るなら今しか無かった。

(違う。)

 弱い自分を振り切ってしまうなら今、この一瞬しか。
 どうなってもいい。
 こころを覆う壁を。

(あんこ――)

「ぱーんち!」