小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

7月の出来事

INDEX|7ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

俺が、振り向くと、多恵と愛が、それぞれコーヒーとカステラ、そして、俺の好物の甘納豆を持って、並んで立っている。
「・・ああ・・・ありがとうね。・・あれ? 今日は、コーヒー二つに、ジュースも有るじゃないか。」
「うん、そうだよ。愛と話してね、私達も一緒に音楽を聴きながら、潤ちゃんを慰めようって・・ね?」
頷く愛・・。
「・・そう? で、一体、俺の何を慰めてくれるの?」
「だって、淋しがり屋さんでしょ、潤ちゃんって・・?」
「淋しくなんかないさ。今は、傍にお前達二人、何時も居てくれるし・・」
「あ~、そんなお世辞言ったって、もう何も出ませんからね。第一、あなた、この頃少し太って来たし・・」
「そういえば、この前、90kgを優に超えていたわ・・、愛ちゃんの2倍以上だ・・」
「あはは・・」
「なんだよ・・俺の体重が増えるのは、家庭が平和で楽しいからだぞ。」
「違うよ。潤ちゃんが、よく食べるからだよ、ねえ・・?」
「うん、そうですよ~。愛の4倍くらい食べてますよ~」
「ほんと? 嘘だぁ・・」

家族ってのは、有り難い。

賢治達の件が、一応、方は着いたとはいえ、以来、俺の気持ちは、やや低空飛行で・・
おまけに、いざこざが済んだ後、それ以上禍根を残さない為に、俺は、お世話になったYさんとか、Cさんの助っ人に駆り出された3人とかに、色々気遣いをしなければならなかった。
Yさんの場合は、彼自身、俺の事を理解してくれていたので、日を改めて、お礼に伺っただけだった。
しかし、お互い望まない事とはいえ、何の関係も無いCさんの助っ人と新たな因縁など作りっ放しにはしておけない。
俺は、姐さんの経営するスナックで、3人とお疲れ会を・・
まあ、彼等は、本当に良い人達で、何かと暴力的なCさんが、相手を傷付けたりする事の無い様にと、むしろ、事を穏便に済ませようと、前もって話していたそうだ。
俺は、望まない事ではあったが、Cさんに暴力を振るった事を、謝った。
「な~に、構やせんですよ。あの男は、何か有ったら、すぐに殴る蹴るの人じゃけん、一回くらい、あんたの様な人に叩きのめされた方が、あの人の為ですわ。」
3人の一人の言葉に、姐さん、
「そうよ、ええ薬よね。それにしても、潤、あんた、えかったねぇ、相手を殺さんで・・ねぇ・・」
「・・」
「・・・」
「・・」
「姐さん・・、俺、そんなに暴れてませんよ・・」
「じゃけん、えかった言うとるじゃろ。あのな(と、3人の方を見て)、この男は、カッとなったら何をするか分からんけぇね。この男の身体は、刃物で刺された傷が、なんぼうも(沢山)有るんよ。・・まあ、よう死なんかった思うてね・・、あんた等、この男みたいな者(もん)と関わるもんじゃないで・・」
「・・」
「・・・」
「・・」
「姐さん、見た様な嘘を言わないでよ。傷なんか、二つか、三つですよ・・」
「そんだけ有りゃぁ、充分ですよ。・・じゃあ、ムショに入っとったいうんは、ほんまですか?」
「いや、はったりですよ。幸か不幸か、一度もお世話になどなってませんから・・。それに、これは、フィリピンに居た時の傷ですから・・」
「そうですか・・。わし等、あんたが、本物のあっち系かと思うて・・」
「いや、全然・・。むしろ、俺もあなた達の事を、そういう人達かと・・」

兎に角、姐さんの面白おかしい話術も手伝って、3人とは、仲良く成って、今後とも機会が有れば、お付き合いを・・という事になった。

いずれにしても、日頃、出歩かない俺が、頻繁に夜遅く帰るものだから、そんな俺の事を心配して、多恵と愛は、家族三人で、ゆっくりと寛いだ雰囲気を作ろうと・・

「ねえ、痛かった? 刺された時・・」
「愛、そんな事聞いたら駄目だよ・・」
「別に良いさ。・・ちょっとだけ痛かった。」
「ちょっとだけ・・?」
「うん、ちょっとだけ・・」
「ふ~ん・・・。どうして、ちょっとだけ? 愛は、このあいだ、包丁で指を切った時、凄く痛かったよ。」
「ああ、あの時ね・・ もう治ったの? 大丈夫?」
「うん(と、指を見せる)」
「ほんとだ。治ってるね。去年、ママも指を切ったんだよ。その時、ママはね、凄く痛がって、泣いたんだよ・・ね、ママ?」
「・・だって、ほんとに痛かったんだもの・・」
「ママは、子供みたいな処が有るからね・・ でも、俺は、ママのそういう処、とても好きなんだ・・」
愛は、笑いながら多恵を見る・・
「もう、潤ちゃん・・恥ずかしいじゃないの・・」
「嫌いって言うより良いだろ?」
「それは・・ だから、愛の前で言わないでよ、そんな事。」
「バカだなぁ・・愛ちゃんの前だから、言ってるんだ。あのね愛ちゃん、俺はね、こうして誰の前でも、好きな人を好きって言えるのが、とても幸せだって思うの。・・分かる?」
「・・よく分からない・・・」
「そうか・・ まあ、何時か分かる時が来れば好いね。」
「うん・・。 でも、良かったね、刺されたのに生きてて・・」
「そう思ってくれる? ありがとね・・」

その夜、俺達は、特に何を話すというのではなかったけれど、何故か、その場の雰囲気を、そのままずっと保ちたくて・・何時になく夜更かしをしてしまった。



(8)

今日も暑かった~ って、単純に暑いと言うだけじゃ、この暑さは、上手く伝えられないぞ・・
などと思いながら、
「ただいま~」
と、結局、暑いの あ の字も言わないで玄関を入る。
シャワーを浴びようと、脱衣所で、汗で重くなった服を脱いでいると、多恵が、ソロソロと戸を開けて、何だか怪しげに、物音を立てないで入り、またソロソロと戸を閉める。

「なんだよ、忍び足で入るなんて・・ 愛に気付かれない様に、俺の裸でも眺めに来たのか?」
「あ、ごめんね・・」
「別に構わないけど・・ 何だ?」
「あのね、今日、郵便受けに手紙が入ってたの・・」
「そう?」
「それでね、切手が貼ってなかったのよ。」
「うん・・」
「これなんだけどね・・」

多恵が持っている手紙に目をやると、確かに切手が無い。
明らかに子供が書いたと分かる文字で、○○愛さま とだけ書かれて、住所も郵便番号も無い。

「たぶん、愛を知っている誰かが、自分で郵便受けに入れたのだと思うけど・・ どうしようか?」
「どうしようかって、愛に見せるかどうかって事か?」
「うん・・」
「ははは・・ 間違いなく、愛に好意を寄せている男の子からのラブレターだな。・・見せてやれよ。」
「え~、でも、良いのかなぁ・・」
「構わないさ。お前だって、経験あるだろ、何処かの知らない男の子から手紙とか貰った事・・?」
「あるけど、気持ち悪かったから・・」
「でも、読んだ・・」
「・・うん。」
「じゃあ、愛にも読ませてやれば? どうせ、大した事など書いてないさ。」

って事で、俺は、知らないという事にして、と話しを合わせ、多恵は、また、ソロソロと出て行った。

シャワーを浴びて、3人で一緒に夕食を済ませると、何時もなら、少々の時間、俺達と一緒に居る愛が、そそくさと部屋に籠った。
心配そうな多恵。
俺は、笑いながら、
「気になるか?」
と。多恵は、
「当たり前でしょ。誰からなのかなぁ・・」
作品名:7月の出来事 作家名:荏田みつぎ