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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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7月の出来事

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と、見えもしないのに、愛の部屋の方に首を伸ばす。
俺は、増々可笑しくなって、
「俺も書こうかなぁ、ラブレター・・。そういえば、随分、書いてないなぁ・・」
「えっ、潤ちゃんも書いたこと有るの?」
「有るさ。」
「一体、誰に書いたのよ? わたし、あなたから、一度も貰った事無いよ。」
「(藪蛇だった・・)お前には、メールで送っただろ?」
「そうだけど、やっぱり手紙の方が良かったわよ。わたしは、何度も、潤ちゃんに手紙を書いたけど、返事は、何時もメールで・・それも、簡単にしか返事がなかった・・」
「気持ちは、伝わっただろ?」
「まあ、そうだけど・・」
「じゃあ、好いじゃないか。それより、愛の事だろ?」
「話を逸らさないでよ。」
「元に戻しただけだよ。」
「・・もう、都合が良いんだから・・」

翌日、仕事から帰ると、今度は、俺が、脱衣所に入る前に、多恵が、
「あのね、近所の〇△くんからの手紙だったんだって・・」
という。
〇△と云えば、何時だったか、分数の割り算で後ろの分子と分母を逆転させるのは何故なんだと質問して、彼の父親を困らせた悪ガキだ。
「・・ああ、昨日のあれか・・」
「うん。」
「で、何だって?」
「あのね、好きだって・・愛の事。それでね、夏休みに一緒に遊ぼうって・・」
「そう・・ お前、その手紙、読んだの?」
「うん、愛が、見せてくれたの。」
「何も言わないのに、愛の方から見せたのか?」
「・・・」
「なんだよ、そっとしておけば良いのに・・」
「だって、気になるでしょ? 誰からのものなのか分からないんだから・・」
「そうだけど、知らない顔をしてれば好いんだよ。そうしながら、子供は大きくなって行くんだから。・・で、愛は、何て言ってるんだ?」
「ほら、やっぱり、潤ちゃんだって気になるんでしょ?」
「・・それは、そうだけど・・ 俺が、一度、どやし付けてやろうか、あのガキ?」
「何よ、わたしより過激じゃないの。」
「・・お前が、あまりに気にしてるから、言ってみただけだ。それより、どう言ってるんだ、愛は?」
「それがね、まんざらでも無さそうなのよ・・」
「そう・・ まあ、好きって言われて嬉しくない者なんて、あまり居ないからな・・」

それから暫くして、俺達は、色々お世話になっている人達を誘って、家でBBQをした。
愛の件は、然程気になどする事はないと思ってはいたが、これからも、ずっと地区の一員としてお付き合いを上手くする為に、この際、〇△の親御さんにそれとなく手紙の事を話しておこうと思い、ご近所さんも誘った。

その日、〇△は、かなり早くから来て、BBQの準備など手伝い、事有る度に、愛ちゃん、愛ちゃんと近付く。
愛は、何時もと変わらない様子で、炭を運ばせたり、汗を流している奴に、ジュースを飲ませたり・・なかなか男のあしらい方を心得て居るわい・・。

BBQが始まり、みんなワイワイと面白可笑しく呑んだり食べたり・・
前の日記に書いた賢治とマリ親子・会社のN達も来ていたので、賢治とNには、アルコール禁止令を出し、ちょいと離れた処から来た人達の送迎をさせることにした。
「え~~~? 飲んじゃ、いけん(駄目)ですか・・?」
「当り前だ。後で、家で飲め。」
会社の若い奴等は、ドッと笑い、二人の前で美味そうにビールを・・
「・・くそ~~・・・」
と、怨めしそうに言う二人。
それを見ながら、ご近所さん達も、若い奴等に近付いて、徐々に話しが弾む・・。
こんな出遭いで、みんなが仲良く成れば・・

「愛ちゃん、あっちで遊ぼうや。」
と、悪ガキが・・。
愛は、
「うん、好いよ。」
と、すぐに返事を返した。そして、
「イチローくんも、一緒に遊ぼう。こっちにお出で・・」
と。 な~んだ、二人で遊ぶんじゃないのかと、ややがっかりの悪ガキ。
「(ざまあ、見ろ。人生、そんなに簡単に行くものじゃない)」

やや後で、愛達3人が、戻って来た。
愛は、イチローに、ジュースと肉を食べさせている。それを、少し離れて見ている悪ガキ。
「おい、〇△。」
と、俺は、悪ガキを呼んだ。
「何、おっちゃん?」
「お前、うちの愛に手紙を書いて、自分で郵便受けに入れただろう?」
「うん、愛ちゃんがええ(好き)いうんが、学校で何人もおるけぇ、ぼくも、早う告らんといけん(駄目)思うて・・」
「・・そんなに人気が有るのか、愛は?」
「そりゃ、そうよ・・ ◇とか◎とか・・いっぱいおるで。」
「そうか・・」
「でも、おっちゃん、心配せんでもええよ。あのな、愛ちゃんに、『どんなタイプが好き?』いうて聞いたらな、愛ちゃんは、『パパみたいな人が好き。』言うとったで。じゃけぇ、ぼくも、いっぱい御飯を食べて、おっちゃんみたいにデッコウ(大きく)なるんよ。」
今の今まで、俺は、目の前の悪ガキに、
「マセた口を効くんじゃない。」
と、少々強く言ってやろうと思っていたが・・ 
『パパみたいな人が好き。』と、例え目の前でなくとも、そう言ってくれた愛の事で心がいっぱいになってしまった。
迂闊にも、どっと涙が出そうになるほど胸が熱くなった・・

一緒に住み始めてから、まだ僅か4ヶ月。
住み始める前から、そして、住み始めてからも、色々心配は有ったが、出来るだけ自然に、今までの自分を変える事の無い様に・・ さりとて、最新の注意を払いながら・・ と努めて、自然の、今までの俺を見て貰おうとして来た。
勿論、そんな俺の事を理解して、ほんとは、もっと大人の、素晴らしい母としてもやって行ける筈なのに、時には、躊躇なく3枚目を演じてくれる多恵の存在も大きい事は重々承知。

我が家としては、BBQにかなりの散財をしてしまったが、それに余りあるお返しの一言を頂いて・・、バカな俺は、この悪ガキまで好きになってしまった。
作品名:7月の出来事 作家名:荏田みつぎ