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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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7月の出来事

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と、目覚めた時、まだスヤスヤ眠っている愛の顔を見る事を、やや期待していた俺は・・ちょいと 残念。
(だけど、どうして・・? まあ 好いか・・)

「今日は、弁当は、作らなくても良いから・・」
と、目覚めた多恵に言い、俺は、何時もより早めに出勤した。
賢治の事を、一応、社長に話しておこうと思ったから・・

相変わらず、社長と専務の出勤は、早い。
二人が、向かい合って、コーヒーを飲みながら、ボソボソと話している傍に行き、
「昨日は、どうも・・」
という俺に、
「おう・・ 今、専務にもちょっとだけ話しとった処よ。どうなった?」
「はい、なんとか・・上手く行ったというか・・ どうなんでしょう・・」
社長 「何じゃ、そりゃ?」
専務 「・・・」
「はい・・ 話は、方が着いて・・、賢治は、まあ、よく我慢したのですが・・」
社長 「お前、何かやったんか?」
「はあ・・ まあ そんなところです。」
社長 「バカか? 他人の揉め事に、ええ歳をして・・」
「すみません・・」
社長 「それで、相手は? やっぱり、ややこしい奴じゃったんか?」
「いや、それは、まあ、なかったのですが・・」
社長 「・・まあ、それなら、ええが・・ バカ言うても、ほんまに、お前は、手の着けられんバカじゃのう・・。喧嘩を止めに行った者(もん)が、先頭切って喧嘩をしてどうするんじゃ?」
「はぁ・・」
社長 「・・で、向こうは、よう納得したんじゃの?」
「はい、もう、そこの処は、きっちり言っておきましたから。」
専務 「はは・・ 潤に、凄まれたら、そりゃぁ、相手も、きっちりするじゃろ。 ・・社長、もう、ええでしょ。こいつが、こんぎゃに小(ちい)そうなって言うとるんですから・・」

そんな程度で、俺は、早めに事務所を出た。もう、冷や汗ものだ・・

その日、仕事は、予定より早めに終わったが、若干の設計変更が有り、俺は、元請けの監督と、少しだけ話をして、同僚に遅れて会社に帰った。
車を降りると、すぐにN(賢治の親友)が来て、
「潤さん、賢治が、来とりますよ。」
という。そして、
「あいつの事・・ありがとうございました。」
と・・。
事務所に入ると、賢治が、社長の前で小さくなっている。
相当、油を搾られた様子だ。
社長は、俺を見ると、賢治に、
「まあ、もう、ええけん・・。明日から真面目に働くんで・・。分かっとるんか?」
と。
「はい、色々ご心配を掛けてしもうて・・、すみませんでした。」
賢治は、頭を深く下げて、俺を見た。
「今日は、休めと言った筈だぞ。」
「はあ、じゃけど、社長にだけは、頭を下げに来にゃいけんじゃろ思うて・・」
「・・そうか。まあ、それなら、仕方ないけど、他の者に色々話しをするんじゃないぞ。」
「はあ・・」
「なんだ、それ? まさか、もう話したのか?」
「・・はあ、ちょっと・・」
「バカか、お前? ちっとも、自慢になんかならないだろ、あんな事?」
そこへ、
「賢治、もう、ええけん、帰って休め。潤、お前、ちょっと残れ。お前にゃ、もうちょっと話が有るけぇ。」
と社長。
「はい(くそ・・賢治の所為で、また、お説教か・・)。」

まあ、良く言えば、若干の好意を込めての、お説教が、20分ほど続き、その後、現場の設計変更の報告をして解放された。
そして、帰ろうとして、事務所を出ると、若い奴等が、賢治を囲んで笑いながらたむろしている。
「賢治、早く帰れよ。」
というと、Nが、俺に言う。
「潤さん、聞きましたよ。一発で、向こうの奴等、竦んでしもうたらしいですね。」
「・・・ 何をくだらない事を言ってるんだ。」
と、俺は、何だか急に腹立たしくなって、Nの頭に拳骨をゴツンと・・
「痛ッ・・!」
と叫ぶ、N。それを見て、みんなが、声を出して笑う。

まったく・・俺の気持ちも知らないで・・

こんなバカな奴等と話などしたくはないと、実際、もっとバカな俺は、さっさと車に向かった。
そして、帰る間じゅう、何だか面白くなかった。

帰宅すると、マリは、多恵と話しをしていた。
「なんだ、帰らなかったのか? ・・イチローくんは?」
「愛と、折り紙してるよ。」
「ああ、そう。」
「ごめんね、お兄さん。色々お世話になって・・。賢治が、迎えに来るから、そしたら帰ります。」
「ああ、良いけど・・」

暫くして、賢治が、来た。

賢治は、俺と多恵に、改めて礼を言って、
「今日、役所に離婚届をだしました。・・これで、マリと一緒に暮らせます。」
という。俺は、
「何を惚けた事を、言ってるんだ。まだ、一緒になんか暮らせないぞ。」
「・・・?」
「・・?」
「離婚したら、女性は、半年間は、再婚出来ない筈だ。・・確か、そうだった・・。これだけは、守って貰うぞ。第一、お前達、今の気持ちがどうであれ、もう少し真剣に、将来の事とかを話し合いながら、自分の気持ちを確かめて見ろ。そのくらいのインターバルが、有った方が、お互いの為だ。」
「・・・」
「付き合うのは、勝手だが、すぐに一緒に暮らすなんて、認めないからな・・。俺の言いたい事、分かるか?」
「・・・」
「・・」
「人間なんて、完璧な物など居ない。・・俺は、マリとCさんが別居を始めた責任は、フィフティー・フィフティーだと思ってる。事の引き金は、どちらかに否があるかも知れない。だけど、何年か一緒に暮らしていれば、お互いに小さなストレスなどが溜まって来る。それを、解決しないで我慢し続けているから、一方的に相手を非難したり、気持ちが分かって貰えないとか、相手の立場を考えないで、不満ばかりつのらせる。そんな生活を続けていれば、やがて、別れるのは、誰が考えても頷けるだろ? 
まして、お前達は、生まれ育った国が違う。そして、言葉も充分には、理解し合えないだろ?
お互い、理解し合っていると思っているかも知れないが、よ~く話してみれば、必ず誤解も有る筈だ。俺は、10年近くフィリピンに住んで、言葉の壁の大きさを嫌というほど経験したから、分かるんだ。
この半年で、色々な事を話すんだ。分かっているだろうと、勝手に決め込まないで、とことん、諄いほど話し合え。
そして、賢治、お前、一度フィリピンに行って、マリの両親に会って来い。その国を、肌で感じて来る方が好いと、俺は、思う。
そうしているうちに、半年くらい、すぐに過ぎるさ。
それでも、お前達が、結婚したいという気持ちでいっぱいなら、一緒に住めば好い。・・・」

二人が、理解してくれたかどうか、俺は、改めて確かめはしなかったけれど、兎に角、諄いほどはなして、二人を帰らせた。

(7)

静かに、やや重めの3連のドラムに合わせ、ルートだけを刻むシンプルなベース。
そして、良い調子で絡んで来るギターの短いイントロ・・
歌い始めるのは、俺の最も好きなアーティストの一人、ジョー・コッカー。

椅子に浅く腰を降ろし、背凭れに身体全体を預ける様にして、何時もより大きめのボリュームで聴く 碧い影。
プロコルハルムのも、勿論、好いけれど、一人静かに何か、考えるでもなく考える時、俺は、このジョー・コッカーのものを聴く。

「潤ちゃん、コーヒー・・。今日は、特に心を込めて作ったからね、美味しいと思うよ、ねえ、愛?」
作品名:7月の出来事 作家名:荏田みつぎ