慟哭の箱 12
駅で待ち合わせたが、結局仕事がぎりぎりまでかかり、家に戻る時間もなかった。清瀬は職場から駅に直行する。旭が待っていた。
「遅くなった、すまん」
「俺のほうこそ、仕事のあとなのにすみません」
旭は謝りながらも、表情は明るく嬉しそうだ。こういうところも変わってきたなと清瀬は思う。出会ったころよりも格段に、年相応の表情を見せることが増えた。存在感がなかったのがウソのように、いまはしっかりとした輪郭がある。
「一応、全員の願いを今夜いっぺんに叶える予定」
清瀬は指を折りながら思い出す。
「とりあえずここから電車乗る、ディズニーでシンデレラ城を見る、うまいもんを食べる、で、タルヒに土産を買って帰る」
「すごい贅沢だ。みんな喜びますきっと」
ホームに並んで立つ。電車が来るまでまだ時間がある。ホームには清瀬と同じような仕事帰りのサラリーマンや、家族連れやカップルがいる。冷たい風が吹き込んでくるのに、心はほかほかと温かかった。
「一弥は何も言ってない?」
「一弥?」
彼だけは何も願いを書いていなかった。あいつはもう大丈夫だとそうは思ってはみても、やはり清瀬には気がかりだった。
「一弥はね清瀬さん」
含むように旭が笑う。幸福そうに。
「なに?」
「もう願いは叶っているから、書かなかったんです」
「え?」
「箱の外はこんなに眩しい。清瀬さんが、全部壊してくれたから」
彼は静かに呟いた。その瞳が、まるで新しい世界を見たかのように美しく澄み渡っていて、清瀬は息をのむ。
「交換日記」
「え?」