慟哭の箱 12
世界
「あの、ずっと聞こうと思ってたんですけど」
「え?」
「清瀬さんは、あのたくさんの星空の写真を見て、どんなことを考えていたんですか?僕は、あなたが美しいものに心を癒されるタイプに思えないから…広大な空や星をどんな思いで見ていたのか聞いてみたかったんです。ずっと」
自分がちっぽけだと恐ろしくはないの?
無数の星のうちのひとつにすぎないと、孤独な気持ちにならないの?
イシュはずっと聞きたかった。
「なにか高尚な答えを求めてるのかな」
「そういうわけじゃ…気に障りましたか?」
「いや。ただイシュに問われると、なんだかすごく意味のあることに聞こえてしまうから、構えてしまうんだ」
清瀬が笑う。
「きれいだなあってそれだけだよ」
「……」
「世界は美しくて優しい。それだけで生きていけると、思っていた時期があったんだ」
それはきっと幼い清瀬を苛み続けた葛藤のことだろう。
「神様が世界をこんなに美しく作ったのなら、自分だってこの世界で生きていてもいいんだろうって。許されるかもって」
「…今でも?」
「いや、いまはもう、そんなことは思わないけど。でも、生まれてよかったなって再確認しているのかもしれない」