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海野ごはん
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novelistID. 29750
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CBRの女

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船が一隻も泊ってない埠頭は、無料釣り堀り状態で釣り師たちがかもめのように岸壁に腰掛けている。誰も二人のバイクには関心を示さない。
昔の暴走族と違って排気音はわずかだ。多分、気が付かなかったのかもしれない。
ヘルメットを脱いだありさはショートヘアーの乱れを気にするかのように、ミラーを見て整えた。
海島はメットを脱ぐと開口一番こう言った。
「やっぱり、お前か。ちくしょうバイク買い替えたのか?」
「海ちゃんも変えたの?可愛いわね、そのバイク」
「もう、爺ぃだから、こんなんでいいいんだよ」
「赤いバイクは海ちゃんに似合うよ」
「CBR250Rか、ニンジャの方がよかったんじゃね~か」
「どうせ街乗りだから、こっちがいいのよ。それに単気筒が好きなの」
「タバコ持ってるか?」
「持ってない。吸わない。やめたの」
「へ~、そりゃいい。女がタバコを吸うとキスする時に臭いもんな。男みてぇ~だ」
「男とキスしたことあるの?」
「ないっ!」
「じゃ、わかんないじゃん」
「吸うのは乳首だけだ」
「聞いてないわよ、馬鹿っ!」


釣れない釣り人の上空をウミカモメが泣きながら飛んでいた。時々下りては釣り師の餌を盗み食いしたいのか機会を伺ってるようだ。
海島とありさは、お互い付き合ってるようで付き合っていない関係を続けていた。どうして付き合ってるような・・・ようなというのは、もう二度ほどベッドの中で抱き合ったことがあるからだ。
だけど、普段は友達としてずっと長く付き合っている。あの夜の出来事は二人の間では、いや知り合いも含めて過去も含めて、なかったコトにするのを当たり前にしていた。
出来心・・・雰囲気でつい・・・。そんな夜だったのだ。
きっかけはなんてことない。酔ってただけ。男と女が二人きりで酒を飲み、ついつい、そういう関係になってしまっただけ・・ということなのだ。だから、お互いあの夜を気にはしているが、抱き合ったからということで関係を壊したくなかった。ずっと友達ごっこをしていたかったのだ。
進んで電話して会おうとは言わない。どちらかともなく2ヶ月に一度だけメールを交わし、なんとなく会おうか、なんとなくバイクで走ろうかという関係で良かったのだ。そのほうが心地いい時間を過ごせる。だから二人の関係は恋人未満、友達以上。そんな関係でよかった。

「海ちゃん、彼女できた?」ありさは珍しく、恋愛の話題を切り出した。
「出来たり、いなくなったり。出入りが激しくてどうでもいい」
「なによ、そのどうでもいいって?」
「なんか一生懸命になれないってこと」
「じゃ、不真面目に遊んでるんだ」
「不真面目か・・・」海島はありさのCBRを撫でながら笑った。
「いつだって、不真面目で怒られてるな女に。正解!根がチャランポランなんだ。なんで聞くんだよ~?」
「海ちゃんの廻りには、いつも女の人がたむろしてるようでさ、どうかな~と思って」
「どうもこうも遊んでるだけ。どうも気が乗らないんだ」
「ちゃんと好きな人と付き合わないからよ」
「そだな、乗るのはバイクと身体だけなんて調子こいてるよな。いい歳なのに」
「そうよ、いい歳なのよ。そろそろ落ち着いてもいいんじゃない?」
「落ち着くって?結婚か?・・・バカ言え。俺は一生フラフラでいいんだよ」
「そう?パパって呼ばれるのもいいかもよ」
「なんだよ、それ?」
「別に・・・」
「なんだよ、それぇ~?」
海島がありさに近づくと、ありさは脱いでたメットを被り、イグニションキーを回しスターターを押しエンジンを始動させた。右手を前方下にクイッと軽く回すとCBRのマフラーは甲高い唸りを上げた。海島の質問を遮るようにありさはエンジンを空ぶかしした。
「おいっ、おいっ・・・」海島がありさの肩に手をかけようとすると、クラッチを繋いだありさはするりとかわしバイクを走らせた。そして埠頭のかもめを驚かすように回転数を上げ、走り去っていった。
なんだ、あいつ・・・・どうしたんだ?


作品名:CBRの女 作家名:海野ごはん