CBRの女
第1章 フロントホーク
水冷 4ストローク OHC 単気筒の赤いPCXに乗った海島圭佑はサイレントマフラーSP TADAOから出る軽いエキゾースト音を残して、交差点を急発進させた。だけど3秒と経たぬうちに、明らかに女性と思われるレーシングスーツの丸いお尻を見る羽目になった。
彼女のバイクはCBR 明らかに排気量が倍違う。高性能のトルクを持ったCBRはぐんぐん海島を離してゆく。
「ちくしょう!」
二人は先ほどの交差点でメット越しに目を合わせた。赤信号で偶然、隣同士になったのだ。
まあ、よくあることなのだが互いのバイクが気になる。
海島のバイクを見て微笑んだ彼女は、200m先の信号を指さした。
海島から見れば明らかに挑戦だ。どちらが速いか走ってみようかという挑発に見えた。
甲高い音を残したCBRは余裕で次の信号で停まった。
海島はスロットルを戻しながら、隣に到着すると親指で埠頭の方を指さした。
信号を渡りカーブを過ぎた所に港の埠頭はあった。
名島ありさは指先でOKと合図すると、青信号とともにするするっと前に出て、海島を誘導するかのように背中を見せた。
「あんちくしょう!」
また、主導権を握られたような海島はフルフェイスのメットの中で毒づいた。