「もう一つの戦争」 舞い降りた天使 5.
「ありがとうございます。すべて女将さんの言うとおりにします。泣いても家族の下には帰れないし、はぐれたおばあちゃんにも会えないということがはっきりしましたから、ここで生きてゆく覚悟を決めます」
「そうね、よく言ったわ。女二人だけど頑張りましょう。今日は午後に三島まで行って省線に乗り換えて東京まで買い物に出かけましょう。お客様のご予約も入っていないから、宿仲間のところに泊まってきてもいいわね。裕美子さんはどちらに住んでいたの?都内かしら」
「はい。本当ですか?私は浅草です。女将さんはどちらの出身なのですか?」
「そう!私も浅草なのよ。偶然ね。亡くなったけど母は芸者だったの。父親のお手つきになってそっと産んだんだけど、まさか本妻の兄が海軍の偉いさんだったなんてびっくりしたわ。そのおかげでこうしているんだけど、世の中どういう風になるかわからないから、戦争なんて無かったら、兄はどうしていたのかと思うと私は遊郭で働かされて、今頃お払い箱になってさまよっていたのかも知れないって時々考えるわ。裕美子さんのおうちはどうだったの?」
作品名:「もう一つの戦争」 舞い降りた天使 5. 作家名:てっしゅう