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司令官は名古屋嬢 第6話 『一部』

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「う、嘘だろ!!! 痛い!!! やめてくれ!!!」
「大丈夫だって! 深く刺さることはなさそうだから」
「当たり所がいいようにがんばってね」

 上社と八事は、男が苦しんでいる下りエスカレーターに、包丁を何本か乗せた……。新品であるそれらは、刃先を鋭く輝かせ、男に向かって下りていく。
「イダイ!!! ヒィ!!! イデ!!!」
涙を誘うような悲鳴をあげ続ける男……。痛々しさに磨きがかかっているのがわかる。
「キモイわね」
「あんな声、めったに聞けないよな」
2人は、冷笑を浮かべずにはいられなかった……。
 おそらく2人とも、戦場で溜まるストレスを、これで発散しているのだろう……。こういう爽快なイベントがあるおかげで、良い仕事ができるというわけだ。


「ちょ、ちょっとこれは……」
「おい!!! おまえら、何やってるんだ!!!」
スーツ姿の男女が、下りエスカレーターのふもとにやってきていた。胸には金色のバッジが輝いている。2人とも年齢は20代で、スタイルの良い美男美女であった。
「ああ、いつもの世界保安省の人たちか」
その2人を見た上社が言う。自分の子供っぽい外見をコンプレックスに思っている彼は、その2人をあまり良く思っていないようだ。
「こいつは大事な捜査対象なんだぞ!?」
スーツ男が彼に文句を言った。そのあいだに、スーツ女がエスカレーターの非常停止ボタンを押す。
「そいつに、身の回りにある危険について、教えてやってただけだよ!」
「ハッキリ言わせてもらうけどな! おまえらのほうが危険だ!」
スーツ男のセリフにカチンときた上社。しかし、これ以上相手しても時間の無駄だと思ったらしく、
「八事、もう行こう」
そう言うと、立ち去っていく。
「ちぇ、他にも試したい物があったんだけどな」
未練がましいセリフを吐きつつ、彼女も彼に続く。
「コメダで、あの話の続きを聞かせてくれよ。いい気分直しにもなるからさ」
「別にいいけど、アンタの奢りだよ」
上社と八事の口調は、まるで何事も無かったのようだった……。