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熾(おき)
熾(おき)
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月のあなた 上(5/5)

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友人の朝



 稲荷の祠と鳥居の前に来た時、まだ日向は来ていなかった。

 集合時間五分を過ぎても、やはり青いランドナーは現れない。
 蜜柑は【何かあった?】CHAINでメッセージを送った。

 更に、五分が過ぎた。

「あ」

 日向がゆっくりとやって来た。
 道の途中までは俯いていて、蜜柑に気付いていない様だった。
 だが顔を上げて、友人がまだ居るのに気付くと、やおらバイク並にスピードで一気に残りの距離を詰めて来た。

「…早!」

 風が巻き起こるほどの勢いで突っ込んできたテオドール二世が、甲高いブレーキ音をたてて停まる。

 それでも日向はうなだれたまま、蜜柑を正面から見ることが出来ない。

(どうしよう、待っててくれてたよ。)

「…あ、あの…」

 声が上ずった。
 なんで遅れちゃったんだろう。
 何で途中で「先に行って」って連絡しなかったんだろう。
 日向は何か言おうとして、口をもごもご動かしていた。 

 一方蜜柑は、日向がまだ怯えている様子を見て取った。

(そうだよね。)

 拒絶される恐怖は、すぐに消えてなくなったりしない。
 この子はきっと時間通りに出ようとした。
 でも家を出ようとする時に、また透明な壁が肩や胸につっかえたんだ。

(…気づいたら時間が過ぎていて。)
(わたし、駄目だなあって思いながらここまで来た。…)

「…ご、ごめん…」 

 緊張でかすれた声を聞いて、蜜柑の胸にじわりとあたたかさがにじんだ。
 日向はまだ項垂れている。
 蜜柑は、一歩前に出てそれを抱きしめた。

「…み?」

 蜜柑は日向を放すと、微笑んだ。   

「おはよう! 行こ」

 それから目の前でサドルに跨ると、漕ぎ出した。

「…うん…!」

 その朝はずっと、蜜柑が日向の先を走った。特に何も話さなかった。