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熾(おき)
熾(おき)
novelistID. 55931
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月のあなた 上(4/5)

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「いやあ、一番の難所だったけど、何とかなったね! あなた、ふらついてるけど大丈夫? 大丈夫ね!」
「あ、ああ…」

 あまり大丈夫ではない声音で父親が返している。
 日向は聞きながら、布巾で必死にテーブルを拭いていた。
 母が鼻血を零した、同じテーブルである。

「…ひなた――ひなちゃん、…ちゃんと其処に居るわね?!」

 机を拭く立て膝のまま、日向はテレビ画面を振り向く。

「いるよ、かあさん。ここにいるよ」
「そこに、いてね…お母さんは、ここにいるよ」

 母親の白い指先が、ビデオカメラのレンズに触れていた。
 日向は、その指に重なる様に自分の手を置いた。ほんの少し、温かさが伝わった気がした。

「ごめんね。こんな母さんだけど、大事なことを、いおうとしてるんだから…」
「わかってるよ。続けて」
「ええとその――月待家の美人姉妹は糸屋並みに評判の娘に育つことが確定しているので、まずその方面の事を心配したわけですが…まあ、相手に関しては、お父さんくらいの人を最低基準にしたらいいと思います」
「「おいこら」」

 思わず、カメラを握っているであろう父親と声が重なった。
 しろはぺろりと舌を出す。

「ま、男の人は、いざという時にちゃんと女の子を受け止めてくれる人――かな」

 一瞬、母の目線がカメラよりも少し上に移って、微笑む。
 父が咳払いをしたのが分かった。
 それからしろは、それまでの和気を消して、真顔になった。

「性衝動よりも…これからひなたにとって問題になって来るのは、もう一つの衝動だと思います。もう感じているとおもいますが」
「――」

 日向は、しらず胸の上の服を掴んでいた。

「十六歳前後を境にして、強くなってくる。女の子が、一番美しくなりはじめるのと同時に。恐らくそれが、生存戦略だからなんでしょうね。お姉ちゃんから、衝動を抑える薬を貰ってるとは思いますが、結局それでも抑えきれない時はあると思います」

 しろは口の端を、半分赤く染まったタオルで拭った。

「血を吸う、衝動を――」