月のあなた 上(3/5)
「おまえら、大体見て回った?」
晶は緊張も遠慮も無く話し続ける。
日向は、なんとなく毒気が抜かれた。
「まあ、だいたいね」
「図書館、武道館、劇場は?」
と法子。
これには蜜柑が答える。
「武道館と劇場は最初に行ったよ。図書館はまだかな、クラスに近くて戻るのに便利だから、最後にしようと思って」
「私たちも同じ考えなの」
「一緒だな。じゃさ、ウチのクラス行った?」
「「あ」」
盲点だった。
たしかに吉田も教員である。
この時間、なにがしかの自己テーマに基づき、1―Aで講義を行っている筈だ。
「担任、いったいどんな授業してるのか、見たくない?」
「あ――」
”そんな男関わるな。”
「…べつに」
日向が肩をすくめると、晶は口をへの字に曲げる。
「委員長、ノリ悪いな!」
「あ…でも、エクスプローラってカリキュラム関係ないんだよね。だと、先生が普段何考えてるのか、わかるかも」
あの人意味不明だから、とまでは云わなかった。
「大甘堂、鋭い!」
晶が人差し指で指した。
「敵を知れば…とも言うよね」
「べつに、敵じゃないよ…ただの教師じゃん」
なおも日向は乗り気でない様だったが、
「だろ? じゃ、いこーぜー!」
晶の勢いに押されて、しぶしぶ立ち上がる。
蜜柑も法子に促された。
「でも、なんでそのためにわたしたちを誘うわけ?」
「だって、こえーじゃん!」
晶はけらけら笑った。
作品名:月のあなた 上(3/5) 作家名:熾(おき)