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熾(おき)
熾(おき)
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月のあなた 上(3/5)

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警戒警報



 その日の昼食は、
「テレビ見放題らしいぜ! いこーぜ!」
 という晶のホットニュースにより、〈国際ニュース室〉で食べることとなった。

「テレビ見ながらご飯食べるのって、うちじゃだめなんだけどな」

 本棟から科学研究棟(通称〈理研棟〉)へと繋がる渡り廊下を歩きながら、日向がぼやく。

「え、むしろうち必須なんだけど」
「わたしんちは見たり見なかったりかな。みかんちゃんちは?」
「うーん。基本見ないかな? 見たい番組が有ったらつける」
「まじ? きびしくない?」
「きびしいっていうより」
「家族と会話するため?」
「……へー…っと、着いた」

 白い壁と南向きの窓が続く廊下の途中で、四人は止まった。
 鉄のドアにはプラスチックのプレートで〈国際ニュース室〉と鋲うってある。

「なんか、こう…」
「いかつくない?」
「さっきから一人も生徒見ないし…テレビ見放題なんだよね?」
「ば…もう埋まってんだよ! はいりゃわかんだろ」

 中に入ると、六人掛けの白テーブルが六つと、そこに上級生がまばらに腰かけていた。
 上級生の大半は三年生らしく、女子は花のブローチ、男子は同じデザインのカフスを付けている。その中には、左手でスプーンを握り、右手で時折タブレットを叩いている人もいた。
 そして、全ての生徒たちが見ているのが、テーブルごとに吊り下げられた、大きな液晶画面である。その六つの画面は六つともが、美濃人言葉(みのとことば)でないテロップと音声を流していた。

「みんな…美濃人(みのと)にしては、肌のグラデーションがくっきりしてるね」
「インテリのスーツ上半身ばっかり」
「…なんだこりゃ! 横文字ニュースしかないじゃん!」
「国際ニュース室だからね…」

 ショックを受けている晶の隣で、法子がタブレットを叩く。

「LANにつないでもリモコンもポップアップしないし、番組固定だ。よかったね。英語の勉強になるよ」
「ふ…、中途半端な情報をつかんできたものだねえ、晶(あっ)ちゃん」
「うぐ…」
「いいじゃない、これはこれで面白いよ。どっかすわろ」

 蜜柑が促し、四人は空いているテーブルに弁当を広げる。その正面に下がっているテレビでは、英国系GBCニュースが流れていた。

「……」
「……」
「…タブレットで、同時通訳の音声が拾えるらしいよ」
「…あっそ」

 四人は、黙々と箸と手を動かす。コーヒー色の肌、黒い髪のキャスターはまじめくさった顔で、ひたすら意味不明の言語をしゃべり続けている。

「……」
「ふうん、あの首相退陣したんだ」

 日向がぽつりとつぶやくと、俯きかけていた三人はぱっとそちらを向いた。

「ひなちゃん、わかったの?」
「ああ、うん。あのくらいの内容なら」
「そういえば、一年居たんだっけ」
「…ただのテロリストじゃなかったのか…」

 晶は、そこで菓子パンを袋に戻すと、隣の法子を両手で示した。

「のりっぺは、こう見えて何気に理数系だ…国語、英語…」
 いいつつ、蜜柑と日向を指さす。そして、自分の胸に手を当てた。
「これで、テスト対策は完璧だぜ!」
「あんたは何するの」
「チョコクロを分けてあげよう」

 その時、テレビから速報の音が流れた。

「お?」
〈MHK義府(ぎふ)ニュース速報〉のテロップが画面上部に表示される。

 〈…昨夜未明、和家(なごや)港コンテナヤードで従業員男性の殺害。自律警備ドローン四機が損壊し、外国武装組織の犯行の可能性が極めて高い。和家市内全域で警戒レベル・乙。…〉

「…まじで」

 テロップが繰り返しに入ったころ、晶がやっと言った。

「治安警報、桜垣でもでるかな…?」
「まさか、桜垣だぜ。だれがねらうんだこんな田舎」
「でも十年くらい前も、なかったっけ…戒厳令」

 戒厳令とは、警戒レベル・甲の別称で、昼夜を問わず一切の外出が事前許可申請制となる状態である。

「あの時は、けっきょくなんの被害もでなかったじゃん? …和家の方じゃ、ひどかったみたいだけど」
「……」

 蜜柑は日向の様子を伺った。日向はまた、手を膝の上に置いて俯いていたが、蜜柑が自分を見ているのに気付くと、直ぐに笑顔になった。

「だいじょうぶだよ。悪いことは、桜垣まで来ない」
「そうだね…きっと警察や、国防のひとが何とかしてくれるよ」

 蜜柑はだが言った後すぐに、胸を針で刺されたように感じた。