月のあなた 上(2/5)
祇居を見て、数人の女生徒がから喜びの悲鳴のようなものが小さくあがった。
「ハイ、じゃあ予鈴も鳴ったことだし、そろそろ皆座ってくれますか」
さっき鳴った音が予鈴だったと気づいて、皆妙な顔をする。
「はい、すわってすわって。安心しろ、ここは学校だ。席は常に人数分ある。そしてどの席にも差別も、ごまかしもない」
担任が手を叩くと、生徒らは戸惑いながらも手近にあった椅子に腰を下ろしはじめる。
日向と蜜柑も、なんとなくお互いに目くばせをし合い、隣同士に座った。
「あのせんせい、これ、席順ってどうすればいいんですかー?」
半数程座りかねていた女生徒の、一人が訊いた。
「好きな所にどうぞ」
担任は教卓脇の丸椅子に腰かけながら答える。
「後で改めて席替え、するんですよね」
しぶしぶ席に着く別の生徒が、納得できない顔をする。
「……さあ?」
一瞬愉快そうな光が、教師の瞳をよぎる。
教室に、不穏な沈黙が訪れた。
始業の鐘が鳴る。
今度は、全国一律の「キンコンカンコン」の鐘だった。
作品名:月のあなた 上(2/5) 作家名:熾(おき)