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レイドリフト・ドラゴンメイド 第3話 ああっ神獣さまっ

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 その歴史を築いたのは、ただひたすらに異能力を高めることにささげられた何代にもわたる一族。
 それが彼女たち、魔界貴族。
 その中でも最強とされる大公爵の家が、狛菱家。
 武産はその令嬢なのだ。

 同じ異能力者でも、その差は学生たちが一番知っている。
 そもそも、魔術学園の異能力者は、一人に1つ多くて3つ程度の能力しか持っていない。
 それに対して武産は、卑怯なほどの能力を持っている。
 しかも、ネットワーク派、魔術学園派、異能力者、無能力者問わず存在するヒーロー集団、レイドリフトの重鎮でもある。

 彼女の隣にいるのが、レイドリフト1号。
 今は背広に、ひざ下まで届くフレアコートというフォーマルないでたちだ。
 だが、どんなにダンディな着こなしでも、背の低さは隠せない。というか、隠す気がないらしい。
 武産と同世代、成長期の中学2年生であるはずなのだが、その背が武産より拳一つ分は低い。
 彼、都丹素 巧は相変わらず、日本スーパーヒーローの官僚トップなんだ。と達美は思った。
 今も1号は耳のヘッドセットヘッドホンに手を当て、どこかからの報告を聞き漏らすまいとしている。
 頭には耳まで覆うヘルメット。
 目を覆うスキー用ゴーグルのような物は、視界に情報を映し出すディスプレーを兼ねている。
 口元には牙の並んだ黒漆のマスク、戦国武将の鎧で言う面頬をつけている。
 その身につけている物全てが黒だ。
 それども、帰ってきた達美達に視線を向け、手を振るだけの優しさを見せた。

 ゲートの向こうは、土壁を超えた先。
 そこは大山脈をこえる中継地点として整備された、小さな空港だ。
 それでも滑走路の長さは2キロメートルほどあるのだが。
 そこには、とてつもなく豪華な光景が広がっていた。
 もう数歩歩けば、そこからは空港へ続く広大なレッドカーペットだ。
 その道を守るのは、両側にずらりと整列する、明らかに100人を超える儀仗たち。
 儀仗とは、儀式の際に用いる武器のことで、転じてそれを持つ人のこともさす。
 その後ろには、報道陣が並ぶ大きな雛壇。
 カメラのカシャカシャというシャッター音が引っ切り無しに聞こえてくる。

 まずPP社の隊員が臨時の儀仗を務めている。
 後列に身長4メートルの人型作業機械が。手前に軽装の隊員が並び、微動さえしない。
 人型作業機械の列は、手前に最新型のドラゴンドレス・マーク7。
 奥は装甲とジェネレーターが精錬されていないため、胴体が太く箱型の旧型、マーク6。
 マーク7では人間の動きを再現するため、間接や腹部と言ったところは細かい装甲が重なり合っている。
 しかしマーク6は、そのような複雑な機構はついていない。
 腰も旋回するだけだ。
 だがその分、シンプルさゆえの稼働率、そしてパワーの強さがある。

 前列には人間大のパワードスーツを着た社員がずらりと並ぶ。
 PP社で採用されているのは、自社製のドラゴンマニキュアと呼ばれるタイプだ。
 ドラゴンマニキュア2種類あった。
 手前には全身に装甲板を持ち、それが人間と内部のメカニックを守る、見るからに頑丈なタイプ。マーク4
 そのつぎは、人が生身で身につける一番重厚な防弾チョッキやヘルメット、ガスマスクなどをすべて身につけ、そのまわりを細長いフレームじみたパワーアシスト機構で支えたものだ。
 簡易タイプのドラゴンマニキュア・マーク3。
 それでも背中のリュックサックのように見えるのは、圧縮空気を吹き出してのジャンプや、高いところから落ちた際にスピードを落とすためのジェットエンジンという、高級仕様だ。
 その中の一人が旗手を務めていた。
 旗のデザインは、白い旗の真ん中に、青く角ばった二つのPが、立て線を勝利を意味するV型に合わせたものだ。
 
 PP社の列が終わると、そのつぎに並ぶのは、濃緑の制服を着て、左肩から胸元に金の飾緒をかける、陸上自衛隊第302保安警務中隊。つまり儀仗部隊だ。
 旧式の銃だが木目が目を引くM1ガーランド小銃。
 その銃身には銃剣が付けられ、日の光に当たってキラキラと輝いている。
 旗手が持つのは当然、日の丸。
 その隣には、かみ合う2つの歯車を後ろに、柄の長いハンマーと自動小銃が交差する、チェ連国旗が並ぶ。
 儀仗隊の隣は陸上自衛隊中央音楽隊。
 ブラスバンドに必要な楽器を構え、礼を受けるべき人々が来るのを待っていた。

 儀仗隊の後ろには、矢じりのような、とがった砲塔から大砲を伸ばす、10式戦車や機動戦闘車といった自衛隊の機甲兵器が並ぶ。
 だがそのいかつい姿さえ、生徒たちには懐かしい日本の空気を感じさせた。
 
 儀仗の一番奥を守るのは、武産と共に来たルルディ騎士団。
 西洋風の全身を覆う金属の鎧。
 すべて黒く塗られ、鋭くとがった意匠が全身に施されている。
 まるで、燃え盛る黒い炎。
 その上に真っ赤なマントを羽織り、手には柄の長い槍を持っている。
 当然どれも、魔法による強化がなされたものだ。
 ひらめく旗は、武産の紋章。
 黒い菱型で囲まれた紋章。
 この菱型は忌中紋章と言って、西洋の紋章のルールでは持ち主が死んだ場合に、使われるものだ。
 女性なら普通に使うことがあるが、狛菱家では全員が使っている。
 狛菱家はルルディの貴族の中でも武力をつかさどる。
 常にその身を死地に置いているという意味で一族は皆、黒い菱型の紋章を使っている。
 菱の中には左を向いて後ろ足で立つオオカミ。その爪は攻撃性を示す赤でぬられている。
 口元はレイドリフト1号と同じ面頬。
 足元にはリボン状の飾り、スクロールがあり、そこには「夏の火鉢、旱(ひでり)の傘」と書いてある。
 この言葉は黒田 如水という武将の言葉で、「夏に火鉢を抱くような、旱に傘を差すような、無駄とも思える忍耐をしなければ、部下はついてこない」という意味だ。
 何か短い言葉を書き入れたいと武産が言った時、1号が教えたのを採用した。
 国賓、チェ連のマルマロス・イストリア書記長や、その部下の歓迎準備は整っている。

 そして、その奥にあるのは。
{お帰りなさい! お姉ちゃん! }と書かれた大きな登り旗。
 支えるのはキャロラインの両親と妹だ。
「キャロちゃん! 」
 寒い中、コートを脱いで{息子はヒーロー}のシャツを見せるのは、一磨の両親。{お兄ちゃんはヒーロー}を見せるのは弟。
 他にも名前を書いた横断幕やプラカードが並ぶ。
 ある生徒の両親が子供の名を呼ぶ。
「アラン! 」「明美! 」
 またある祖父や祖母が、もう孫なしの人生に耐えなくてよいと、喜びの涙を流す。
 彼らが、PP社のドラゴンドレスが開いたフェンスをめがけ、こっちへ走ってくる!
 武産のリングが新しく開く。
 そのたびに新たな再会が始まり、歓声が上がる。
「みんな! ただいま! 」

「ママ―!! 」
 地球から迎えに来た人々の中から、ひときわ高い声が響いた。
「ママ―!! 」
 それは、金色の髪をした幼児の声だった。
 一歩一歩ゆっくりと、しかし確実に母親のもとに歩いてゆく。
 だが、まだ走りなれていないのか、すぐに転びそうになる。
 とっさに、隣にいた人が支えた。