レイドリフト・ドラゴンメイド 第3話 ああっ神獣さまっ
「クミ! 」
3年前、不潔な路地裏で生まれた小さな希望。
そして、25年で手に入れた自分のすべてを差し出せる相手。
誕生は悲劇だったかもしれない。
でも胸を張ってかけがえのないと言える息子。
その小さな姿を、ユニは見落とさなかった。
「社長! お嬢様のところへ行ってあげてください! 」
その光景を見て、ゲートを守っていたドラゴンドレスのパイロットは、社長である真脇 応隆に進言した。
お嬢様とは、達美に事だ。しかし、応隆は。
「いや、今はまだ危険だ。恐怖に駆られた人間は何をするか分からないからね」
フェンスとコンボイ。それは距離にして100メートルも離れていない。
応隆は、その間に立ってコンボイと向き合った。
達美は兄たちの様子を、何となく察していた。
だから、泣いて追いかけることも、その場で嘆き悲しむこともしなかった。
これも実験的、副次的とは言え兵器としてのなせる業なのだろうか、と達美は思った。
そう、思っただけ。
空港の滑走路。レッドカーペットの行きつく先に目をやる。
そこに鎮座するのは、彼らを運んできた自衛隊の輸送機・・・ではない。
乗り心地抜群と言われる、政府専用機でもない。
そもそも飛行機ではなかった。
「ねえ、コンボイが止まったのって、もしかして」
達美=ドラゴンメイドが武産=2号と巧=1号の、レイドリフト仲間に話しかけた。
「失礼な話よね。エネルギーのあるなしで約束を反故するなんて! 」
武産は憤慨するが、1号は。
「慣れていない相手では、気分が悪くなることもあるのでしょう。あなた達も、あの、ずしっ! とくるのを感じたことがありませんか? 」
官僚らしからぬアバウトな言葉で、それの威圧感を表現した。
それは、機械ですらなかった。
それよりも、もっと古く、熱い。
大きさだけなら、惑星間をゆく宇宙船なら、あり得ない大きさではない。
滑走路には真っ赤でつるつるな、小高い丘のようなものが広がっている。
この空港の管制塔は、アンテナタワーをのせた鉄筋5階建てのビルだが、それより大きい。
その丘の下には、管制塔を余裕で踏みつぶせそうな巨大なタイヤが山裾に2つづつ。丘の真ん中下に1つ見える。
丘全体を見れば、その姿はフェラーリやランボルギーニといった、一流のスポーツカーの、流線型のボディその物。
エーリカという8輪駆動の自動車をご存じだろうか。
車の前後に、内部にモーターを入れたタイヤを4輪づつ配置することで、車内スペースを犠牲にせず、装甲味の安定性とスピードを両立させた電気自動車だ。
その丘のようなスポーツカーは、全偽に8輪のほかに車体中央に2輪を配置していた。
「お久しぶり~」
スポーツカーのフロント。
そのボンネットのような部分が上下に開くたびに、それが口なのだと思い知らされる。
フロントライトがあるあたりに、巨大な目玉があり、それが達美と目があった。
達美も手を振って「お久しぶり」と返す。
地球人が出会った、最も強大な種族。
遠い未来に生まれる惑星の地母神。
そして、いかなる偶然の法則が働くのか、達美にその力を与えたドナー。
ボルケーナがそこにいた。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第3話 ああっ神獣さまっ 作家名:リューガ