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レイドリフト・ドラゴンメイド 第2話 勇者の家路

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 中にはストレスを和らげるための甘いお菓子が入っている。

 それほど背の高くない、小柄と言っていい達美が差し出すチョコを、会長の長い手がさらっていく。
 すると、その手の中で包み紙が吹き飛んだ。
 びりびりと、小さな紙吹雪となった中からは、ヒビ一つついていないきれいな板チョコ。
 会長は、指にチョコが解けてくっつくのも構わず、かぶりついた。
「智慧さん! 聴こえてるんでしょ! 」
 ユニが、その場にいない保健委員長に声をかけた。
 城戸 智慧は、この車の中にはいない。しかし。
【聞こえてますよ。会長】
 その場にいた全員の脳裏に、勝手に言葉が浮かんだ。
 達美の猫の脳も同じだ。
 智慧は人の脳に直接映像、言葉、臭いや温度などの感覚を感じさせることができる、テレパシーの使い手、テレパシストなのだ。

 先ほどまでユニたちと同じく落ち込んでいた智慧のテレパシーには、もの悲しい雰囲気が漂う。
 だが、ユニはあくまでパワフルに振る舞った。
「スバルさんに聞きなさい! この山を下りたら何があるか見てもらうのです! 」
 スバルとは、智慧の乗る車のさらに後ろを走る車に乗った、スバル・サンクチュアリのことだ。
 山や高層ビルの向こうまで見渡せる透視能力者で、剣道部の部長である。
 ユニは力説する。
「山の下のフセン市に入れば、私たちの帰還パーティーが催されています! 当然、世界中に中継されます! しかも、ネットワーク派の主導で! そんな場に魔術学園派の精鋭である私たちが辛気臭い顔で行けますか?! 」

 ユニバース・ニューマンは、その高等部の生徒会長である。
 その能力は、万物振動。
 体で触れて脳で考えるだけで、どんなものでも振動させることができる。
 それを利用すれば、チョコの包みに限らすコンクリートでも破壊できるし、振動具合を調整して物を動かすことも可能だ。

「どんな人間でも一度にできることは一つだけ! みんなにお菓子を配りなさい! 今は、おいしい物を食べてリラックスすることが先決だと考えます! 大丈夫! 私達は突然連れてこられたこの世界でも協力を忘れず、平和を守り、今まさに新たな仲間を呼びよせました! 私達は勝ったのです! 」
 そう言い切るとユニは、勢いよくチョコをかみ砕き、恍惚の表情を浮かべる。
 最後は指についたチョコをなめ始めた。
「会長、そうしたいところなんですが…」
 達美が救急箱を開いて見せながら、申し訳なさそうに言った。
「もう、お菓子はありません」
 カバンの中には、包帯が一巻きと絆創膏がひと箱だけだ。
【会長、他の仲間もです】
 智慧のテレパシー。
 それを聞くとユニの手が止まった。

 その様子を見て他の高校生も、ようやく表情を動かした。
 はじめはあきれ顔。苦笑い。
 やがてスイッチアでの苦しい日々。それを乗り越えたという自信が頭をもたげ始めた。
 そして、巨大なライバルへの負けん気に火がついたのだ。
「みんな、今一度考えてみよう」
 落ち着いた、野太い声。
 眼鏡をかけた身長2メートルに迫る、体重が100キロもあるたくましい男の声だ。
 石元 巌。その名の通り、巌のような体を持つ、生徒副会長だ。
「黒木! このニュースは本物なのか?! 」
 巌が自分のタブレットを示して質問したのは、細面で柔和な笑顔を浮かべたクリーム色の髪をした優男だ。
 黒木 一磨。生徒会の会計で、予知能力を持つ。
 だが、一磨が答えるより先に達美が口をはさんだ。
「お兄ちゃんは偽情報なんか使いません! 」
 お兄ちゃんとは、今コンボイを先導する真脇 応隆の事だ。
 達美の剣幕に、巌は一瞬たじろいだ。
 しかし、すぐに人のよさそうな笑顔をうかべ、耳の後ろをかきながら謝った。
「いや、そういう疑いを持ったわけではない。我が校の危機に、情報を外部に頼るしかないのを憂いたつもりだった」
 腰の低い巌の言葉に、達美は自分の勘違いだとわかった。
「そうでしたか。それなら私の誤解でした。申し訳ありません」
 達美が頭を下げるのを見て、一磨が改めて話し始めた。
「では、僕の予知を発表させていただきます」
 そして、自分のタブレットの映像を示した。
 映し出されていたものは今日付けのウェブ新聞。
 緑の葉が茂る桜の木に囲まれた、白く塗られたコンクリート4階建ての魔術学園高等部の校舎が写っていた。
 そして見出しには、{魔術学園高まる不満}とあった。
「この情報は真実です。そして僕たちは、これからこの事態の収拾に全力で当たることになるでしょう」

「あれから2か月か…」
 ユニが憂いた。
 それを記すだけで、長大な物語が描き上がる。
「今まで、結成後1ヶ月待たずに異世界に召喚された生徒総会なんて、あったかしら? 」
 ユニの疑問に巌が答えた。
「まず、無かったろうな」
 今は8月。魔術学園高等部は、夏休みのはずだ。

 魔術学園は、1クラス20人前後で1学年2クラスしかない、全校生徒124人。
 その生徒総会は、生徒会役員、各部活長、学級委員長が集まり、全校生徒と教師たちの前で行われる。
 生徒会長などの生徒会役員は、前年度の10月に。各部長や学級委員は、1年生にもチャンスを与えるため、新学期から2か月後の6月に選出される。
 生徒総会の議員たちは、選出された部長と学級委員を迎え、第1回生徒総会議を行っていた。
 そこへいきなり、スイッチアからの次元を超えるゲートが開いたのだ。
 ゲートを開けたのは、チェ連発祥の地ともいえる、内海マトリックス海工業地域にいた科学者たち。
 彼らは次々に敵が現れる自分たちの世界を救うため、使えそうな技術を異世界に捜していた。
 そこで目をつけていたのが生徒総会議だった。
 魔術学園では、異能力の研究機関という性格上、様々な能力者がいる。
 そんな中で生徒を一つにまとめるためには、自衛のためもあって強力な能力者が選ばれるからだ。
 生徒会役員が11人、学級委員長が6人、部活長が13人。
 総勢30人。
 生徒総会は戦った。侵略者たちと、その裏で暴利をむさぼるスイッチア人、貧困、破滅。
 メンバーの中に、備品扱いの真脇 達美がいたのは幸いだった。
 兄からもらった機械の体には通信機器が備わっている。
 それに、達美に力を与えた概念の出所ははっきりしている。女神ボルケーナだ。
 その能力は、次元を超えたもので、ボルケーナ自身も達美たちのことは気にかけている。
 そのルートを通じて、元の世界と連絡を取ることができた。

 しかし、2か月間学校を開けた影響は大きかった。
 学園には、様々な世界から集められた異能力者がいる。
 だが、最も強力なはずの生徒総会たちが、いきなり失われたことが彼らにショックを与えた。
 安全性への不安。
 自分達もいきなり、さらわれたらどうしよう?
 そのような不安が、彼らを暴走へと駆り立てたのだ。

「やはり、生徒の集め方が無理だったのか? どんなに人道的とはいっても、人身売買まがいの方法まで使って……」
 巌の考えは、世の中に広く考えられていることだ。
 それに、すがさずユニが異論をとなえる。