小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レイドリフト・ドラゴンメイド 第2話 勇者の家路

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

「それは違う! 学園に引き取られなければ、私は何も知らないまま、何もできないまま路地裏で死ぬはずだったわ! 」
 ユニはそう言うと、自分の過去を思い出してブルブルと震えだした。
「魔法が使える孤児なんて、あっちじゃ二束三文で集められる奴隷なのよ。だけど、異世界のバカどもを丸ごと変えることはどうやったってできない。今は、孤児を保護するためには、奴隷商人にお金を渡してでも集めるしかないのよ」
 そう言きる。
「それに、地球で働けば故郷に仕送りがだってできるのよ」
 ユニにとって、それだけが自分と同じ境遇の誰かを救い出す方法なのだ。
 
『こちらは長距離レーダー35号。これより気象情報をお伝えします』
 車内にアナウンスが流れた。一同の視線が運転席側の天井から下がる、ブラウン管テレビに動く。
 
 長距離レーダー35号は、今彼らがいる谷からすぐ東側にそそり立つ山の頂上に立つ、4階建てのビルディング。
 その屋上には直径10メートルの球形レーダードーム。
 侵略者。そして気象を観測する。
 壁面には、エピコス中将率いる極限地師団のシンボルが描かれている。
 どんな場所でも走破する意思を示す山岳用ピッケルと、豊饒を意味するワインの瓶が、X字に組み合い、その前にサバイバルナイフが天に切っ先を向ける。
 それらをチェ連で古くから伝わる高貴な色、青で記したものだ。

 テレビに、長距離レーダーの観測結果が出た。
 青い紙に白く印刷された付近の地図。それに手書きで雲や風向きなどを書き入れた、きわめてアナログな天気図だ。
『現在、山脈東内側は東の風、風速3メートル。晴れでしょう。続いて、フセン市の映像です』
 ややあってテレビに、荒いライブ映像が映った。兵士がビルの屋上でカメラを構えて撮影したものだ。
 これから下ることになる長い坂道は見えない。
 ここまで酸性雨によってボロボロだった木々も、向こうでは生き残っている。
 だが、戦争時代以前のたくさんの国があったころ、この辺りが高級避暑地だったころの面影はない。
 今の木々は、そのころとは比べ物にならないほど緑が減り、色もくすんで見える。 
 山のふもとには、人口6万人のフセン市がある。
 古くから、山脈を渡る中継地点として栄えた都市だ。
 市と言っても人口密度は大変低い。
 山脈との出入り口には5階建てほどの建物も多く、ホテルなどでにぎわっているが、数キロ離れれば遊牧民もいる、牛や羊の大好物である草にあふれた広大な平原地帯だ。
 そのはずなのだが。

 そこには巨大な黒い何かが映し出されていた。
 まだこの先に、越えねばならない山脈がもう一つあるように、またはすべてを阻む巨大な壁のように見えた。
「なに、あれ」
 少女の一人が、その不気味さにようやく声をしぼりだした。
 一行の中で飛びぬけて小柄だ。
 ヒスパニック系なのを示す日焼けした浅黒い肌に、耳までかかるほどに切りそろえられた黒い髪。大きな目は普段なら、くりくりと動いて人に小動物的かわいさと言われる。
 それが今、恐怖と疑問で目を凝らしている。
「キャロ、私の画像修正でクリアにできるけど、見る? 」
 キャロと言われたのは、キャロライン・レゴレッタ。
 学園の体育委員長だ。
 キャロはうなづいた。そして「どうせなら全員分をお願い」と頼んだ。
 やがて、その場にいる全員の電話が鳴った。
「ひっ!! 」
 スイッチアには、こういう携帯電話技術がない。
 シエロはそうでもなかったが、もう一人の護衛はけたたましい呼び出し音にのけぞった。
 その直後、すべての液晶画面に実際の風景そのものの映像が映し出された。
「確か、狂気の山脈という小説があったな」
 巌がそう言ったが、誰からも返事はなかった。
 その沈黙が答えだ。
 平面を埋め尽くしたのは、50年間の戦乱の歴史だった。
 まだチェ連が豊かだったころ、彼らが勝利した宇宙戦艦の残骸だ。
 破壊され、回収された物。捕獲したか、降参させた物もある。
 大きさは小さい物で数十メートル。大きくて全長1キロメートル近く。
 色もさまざま。鮮やかな物、くすんだ物。
 それらが大きく、醜い傷を広げ、幾重にも連なっている。
 まさに動かしようのない荒々しさ。
 狂気の山脈だ。
 
 コンボイがトンネルを抜けた。
 それから1時間後、ようやくフセン市に入る。
 山をだいぶ下ったため、雪が消えている。
「あ! ブドウ畑だ! 」
 キャロが窓の外を見て感嘆の声を上げた。
 山全体が、きれいに並ぶ低い木で覆われている。
「詳しいね。キャロ」
 達美に言われると、キャロは嬉しそうに説明し始めた。
「50年前は、この山脈全体でワインを作っていたのよ。
 今じゃ山脈の内側で細々と作るだけになっちゃった。
 そうでしょ? おじさん」
 キャロに話しかけられた護衛の一人は、「ええ、そうです」と答えた。
「あなた達も、飲んだことがあるのではないですか? 」
 そう質問されると学生の、特に若い者達は、ばつが悪そうになった。
「子供はお酒を飲んじゃいけないんだけどね」
 キャロが答えた。
「ここのワインは栄養価が高いことで有名です。非常時にお役にたてたのなら、エピコス師団長のご親族のおかげでありましょう」
 エピコスの名を聞いて、一磨が質問する。
「あの人は、このあたりの出身なのですか?」
 ちょうど、エピコスの精悍な顔が描かれた看板のまえを通り過ぎた。
 {エピコスワイン}の広告だ。
 シエロは、その説明をすることにした。
 何となく、師団長の、父のことを詳しく知ってほしいと思ったからだ。
「エピコス家は、長い間この地方でワインを作って来たそうです。
 ところが、師団長の両親。つまり私の祖父母が宇宙人から攻撃で亡くなりました。
 師団長は、その時から軍人として生きることを決意し、この地を離れたのです」
 再び、エピコスワインの看板の前を通った。
「この辺りは、もともと祖父母の土地だったと思います。
 付近で一番高いところにある畑だそうから。
 今は叔父様たちが引き継いでいるはずです」
 この話を、若者たちは神妙な面持ちで聞いていた。
 その様子を見て、護衛達はようやくこの異能力者達が、人間だと認識できた。
 他人を敵以外のものとしてみることができる、複雑な心を持った人だと。
(だが、それが我が国の独立のためになるかどうかは、話が別だ)
 シエロはそう思った。