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レイドリフト・ドラゴンメイド 第2話 勇者の家路

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ヤンフス大陸を、北を上にして地図を描くと、ベルム山脈はちょうどアルファベットの”C”の形になる。
 今コンボイが越えようとしているのは、その東側。Cの字の下の先端だ。
 あたりの山々はすべて標高3,000メートル級。今いるところはまさに、夏でも頂に雪をかぶる高さ。
 だがベルム山脈では、これでも低い部類に入る。
 山脈の西側には一級山頂西1番という、標高9,787メートルの惑星スイッチア最大の山がある。
 チェ連ではこの山脈を要塞化することで、幾多の異形の者たちに立ち向かってきた。
 そのために掘られた長大なトンネルの一つに、コンボイは入った。

「あの、電気、付けてもらえる? 」
 暗くなった車内で、達美がたのんだ。
「はい! 」
 答えたのは、金色の髪を持つ少年兵だった。
 シエロ・エピコス。
 その精悍な顔立ちと、透き通るような青い目。
 ヴラフォス・エピコス中将から受け継いだものだ。

 重要人物、この世界へ召喚された者たちの乗る車両は、コンボイの中ほどにある。
 1台に護衛の兵士は二人。
 ともに車両後部のドアのそばに座っている。
 護衛者たちにとって、この重要人物たちは謎の存在だ。
 どこから来て、どこに行くのか。
 そもそも敵ではなかったのか。それがなぜ我々の護衛を受けているのか。
 一応話には聞いていたが、信じられなかった。
 チェ連の軍人なら、50年間さまざまな敵と戦っていたという自負がある。
 そこから得られた経験が、全く役に立たない存在。
 それが、高々殺し合いの技術でしかなかったとは。苛立ちがつのる。

 シエロは壁にある室内灯のスイッチを入れた。
 着いた灯りは、黄色い電球の光。
 車の中の大多数が着ているのは、日本の高校でよく見かける紺色のブレザー。
 男は白いシャツに青いネクタイ。ブレザーと同じ色のズボン。女は白シャツに緑のスカーフ、紺の字にチェックの入ったスカート。

 彼らはつい先ほどまで、自分たちを迎えにきた真脇 応隆に大喜びだった。
 しばらくすると達美が「ねえ、ここなら地球の電波が届くよ! 」と気付いた。
 元々トンネルに無線を使えるアンテナがついているし、ドラゴンドレス・マーク7にも中継器がついている。
 重要人物たちは喜び勇んで、それぞれの手に持った、または腕時計やメガネのように身につけた携帯電話をいじり始めた。
 しかし、次第に若者の表情はこわばり、絶望に変わっていった。
 今では、物音はエンジン音と振動。
 そして、携帯から聞こえるニュースのナレーションしかない。

 容赦なく送られる地球のニュースを、彼らは次々に見ていった。
 シエロは、魔術学園生徒の持つスマホやタブレットの画面をのぞき見た。
 ウェブ新聞の大見出しには異口同音に、{異世界に召喚された高校生 今日帰還}を伝える。
 一方小見出しでは、{高まる学園の不安}とある。他にも{高まる異世界同士の民族主義}、{無茶な生徒確保が原因か?}……{文明差からくる強烈な劣等感}……{今日も異能暴力事件}……{大学生、中学生を含めた混成臨時生徒会 機能せず}……{最後はネットワーク派だのみ?}……。
 チェ連と日本で同じ言葉、同じ文字がつかわれているのか。シエロは不思議に思った。

 その疑問には、ニュース番組のVTRが答えてくれた。
 コンボイの目的地で待つニュース番組のプロデューサーが、学生たちが到着するのにはまだ時間がかかると判断した。
 つまり、つなぎだ。

『ここで、魔術学園の歴史について、振り返ってみましょう』
 重々しい音楽とともに、青い惑星、地球が映し出される。
『20年前、地球全土で異能力者大量発生現象が起こりました。それ以来、地球人はそれまでの政治信条や民族とは違う分けられ方をするようになったのです。それは、異能力者と通常者。
 18年前、日本政府は異能力者を受け入れる社会を構築するための研究機関を設立します。
 赤ん坊から大人まで、生涯にわたって育成、研究、就職まで可能となる、魔術学園です』 

 ここで{魔術学園の成果1 ヒーロー誕生!}のテロップが明るい音楽と共に流れる。
『魔術学園の大きな成果と言えば、異能力を効率的に使い、災害などに対応するヒーローを生み出したことです。
 一方、それまでの地域社会や義務教育に意味を感じ、魔術学園以外でネットワークを使い教育を受ける異能力者もいます。
 それにより異能力者、そしてヒーローは、魔術学園派とネットワーク派に分かれることになりました。
 一般的に魔術学園派のヒーローには異能力者が多く、ネットワーク派には機械テクノロジーを使う通常人が多いとされています』

 新たなテロップ{魔術学園の成果2 概念宇宙論の誕生!}
『私たちの感覚では、時間は過去から未来に流れる物です。
 しかし、異能力の発生に関する研究、我々とは異なる宇宙や、平行世界へ行く異能力が、私たちに宇宙の真理を解き明かしました。
 それは、まず未来があり、それが過去に影響するという宇宙モデルです。
 根拠は、平行世界やほかの惑星に行っても地球人そっくりの人間が暮らし、日本語などに言語がそのまま使われているからです』
(本当にそうなのか? )
 シエロは、疑問は疑問として、起こっていることは仕方がない。と思えるほど、諦めがよくなかった。
『魔術学園の理事長、越智 進先生は、こう語ります。遠い未来、今を生きる者達が死に絶えても、生き残る物。それが言葉や文字、芸術などの文化は残る。すなわち概念は残るのだ。今の時代は概念そのものが力を持ち、それを扱うのが異能力者なのだ。と』

「あ~!!!!!」
 突然、端正な顔立ちの少女が叫んだ。
 いきなり天を仰ぐような体制になったため、青い大きな瞳と波打つ肩までかかる金髪、そして豊かな胸が揺れる。
 だが、せっかくの美貌も嘆きで皺くちゃになった顔と叫びでは、誰もときめかない。
「達美さん! チョコちょうだい! 」
 背の高い金髪少女が白くて長い右手を突き出すと、座席3人分の距離を一気に飛越し、赤い髪の上に猫耳を持つ少女に到着した。
 赤毛の下で茶色い目が、驚きに見開かれた。

 達美は、猫耳の下に猫の脳を持つサイボーグだ。
 そんな彼女が思考する。
 まず搭載された量子コンピュータが人間の思考を模して造られた人工知能を走らせる。
 チョコレートを要求する女性はユニバース・ニューマン。通称ユニの今の表情、現在の状況から、彼女はストレスを感じているのは明らかだ。
 次に自分の持つ猫の脳に、自分のあずかり知らない間にテリトリーが破壊された。というストレスを与えてみる。
 不快感が増す。
 真脇 達美は、チョコを要求する彼女に共感した。
 次に、今日とった食事とのデータを呼び出し、次にハイパースペクトルカメラでユニの健康状態をはかる。
 ハイパースペクトルカメラとは、光を数十バンド(種類)に分光することで、対象の特性や情報を得ることができるカメラだ。
 今日摂取するカロリーなら、まだ余裕があると結論付けた。
「はい、会長」
 と言って、にこやかに足元にあるスチール製のカバン、救急箱を開いた。