小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

レイドリフト・ドラゴンメイド 第1話 戦傷兵の見た青空

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

 突如、彼らの体を、車の進行方向へ突き飛ばす衝撃が襲った。
 急ブレーキがかかったのだ。
「前方に、小型ロボットを複数確認! 」
 タイヤのきしむ音に負けないように、運転手が叫んだ。
「周辺にも現れました! 取り囲まれています! 」
 次に護衛の兵士が続いた。
 彼らに遅れず、エピコスも窓から片目だけ出して外をうかがった。
 木々の間に、小さな馬のような機械があった。
 胴回りは4センチほど。体長は10センチぐらい。
 数機に1機の背には、板のようなものをのせている。
 エピコス達には、それがレーダーだとわかった。
「下車戦闘を申請します! 」
 護衛隊の隊長が、これまでの経験から、至極当然の発言をした。
 そうだ。これまで宇宙から、異次元から、天のどこか、地の底、海の中から現れた者が何だったか?
 そう問われれば、チェ連人なら必ずこう答える。「敵だ」と。
 すぐさまエピコス大将は、この申請を承認しようとした。

「いや! まて! 」
 静止の声が、予想外の者から放たれた。
 イストリア書記長だ。
「あれは、日本から送られた資料にあった。歩兵をサポートするために作られたロボットだ。
 見ろ! ロボットは木の影に身を隠すわけでもなく、全身を見せている。
 銃火器も装備していない! あれは敵ではないのだ! 」
 書記長の声がだんだん嬉しそうな響きを帯びた。
 それを聴いていると、エピコス達は彼がおかしくなったのではないかと思った。
 日本とは、魔術学園がある国。

「師団長、どうしますか? 」
 不安な声で尋ねる部下に、エピコスは待機するよう命じた。
 状況は、書記長の言う通りになっている。
「全部隊、待機せよ」
 通信兵が、その命令を伝える。
 なるべく平穏な声にしたつもりだが、内心は戦々恐々だった。

 レーダーをのせたロボットが一体、近づいてきた。
 まっすぐ、書記長の乗る車に。
 謎の存在を見つめる兵士たちの目と、意思を感じさせないカメラのにらみ合いが、一仕切り続いた。
 その仕切りを切ったのは、運転手からの新たな報告だった。
「上空から、航空機が接近中! これは、レーダーに写りません! あ! 降りてきます! 」

 その航空機が着地した衝撃を、彼らは飛び跳ねる自分の尻と背で感じた。
 急いで外を見る。

 新たなまだら模様が、そこにあった。
 航空機と言われたものは、人影だった。
 身長は4メートル近くあり、輸送車を見下ろしている。
 明らかに強大な力を発揮しそうな、腕と脚。
 その足がしゃがみこむと頭部に搭載されたカメラが、エピコスがいる窓を覗き込んだ。
 カメラは、人間の目の様に二つ並んでいる。
 カメラを支えるのは、突き出される鋭いナイフを思わせる、顔。
 それ以外は完璧なまでに、たくましい人間の体を模している。
「これも、提供された資料に乗っている。
 作業用パワードスーツ、ドラゴンドレス・マーク7」
 エピコスに代わって窓から見たイストリアが説明した。

 ドラゴンドレスは右前腕を窓に近づけた。
 腕の中から、新たな黒い金属のパネルがせり出してくる。
 増加装甲か? エピコスはそう思ったが、パネルの前の空間に、光る膜が浮かび上がった。
 立体映像装置。明らかに対話を望むための物。
 映像には、チェ連の言葉で[初めまして]と刻まれていた。
 古い言葉は上へ、下に新しい言葉が刻まれていく。
[私の名は真脇 応隆。
 我々は日本国による第12次超次元地域合同調査隊です]
 マワキ カズシゲという名は、チェ連人は聞いたことがなかった。
 まるでおとぎ話に出てくるような名前に思える。
 立体映像を使った応隆の説明が続く。
[私はポルタ・プロークルサートルというセキュリティ会社のCEO、責任者です。
 現在、我々の作業地域の安全管理を担当しています。
 あなた達は、武装していますね。
 その意図を説明していただきたいのです]

 武装の意図だって? そんなものは敵と闘うために決まっているではないか!
 と、エピコスは言いたかった。
 そのために、自分たちは生きていたからだ。
 だが、それには、今のチェ連にそんな力はない。
 その事実がチェ連の精兵を委縮させる。
 そのための力は、絶え間ない戦乱の中ですでに失われた。
 このコンボイだって、精一杯かき集めたものだ。
 この程度の戦力で何をするのか、疑問に思われても無理はない。
 そんなエピコスの無念が、これまでの記憶を呼び覚ました。

 宇宙を支配する大帝国。
 50年前、宇宙からやって来た敵はそう名乗った。
 まだエピコスの親が、子どもだったころだ。
 その頃の話を、彼の両親は恨みを持って語り続けた。エピコスが大人になり、兵士となったあとも。
 真面目なワイン農家だった両親は、宇宙帝国の攻撃で死んだ。
 その時エピコスは、極限値師団の若い通信兵に過ぎず、北極に近い氷土に覆われた基地にいた。
 冬にもかかわらず珍しく日のさした日。黒電話の重み。その向こうから聞こえる叔父の涙声は、永遠に忘れない。

 最初に宇宙帝国の映像がテレビで流れた時、子供向けの冒険ドラマが始まったと、誰もが思った。
 だが、それは本物だった。
 何光年も彼方から、何万もの大部隊を送るその科学力。
 宇宙からの敵に対し、当時の人々はなすすべがなく、侵入を許してしまった。
 当時、ヤンフス大陸は複数の国に分かれていた。
 巨大な悪の侵入を許したものの、当時の国々は足並みがそろわず、戦線は混乱状態だった。
 どの国も国境線が複数の国と接していたため、どこかの国境で必ず紛争問題が持ち上がっていたためだ。
 それでも彼らは戦い続けた。
 その作戦を支えたのは、地の利を利用すること。
 先人たちは、いかに宇宙帝国と言えども、地上に降りてしまえば歩兵による戦いになることに気付いた。
 そこでヤンフスの兵士たちは、少ない兵力を集中して敵を散らせ、分散して自分たちの被害を減らし、自分達に有利な地形に敵が来ると殲滅した。
 この成功が、チェ連の陸軍大国主義につながる。
 さらに、その戦線を強力な兵器で支える国家が現れた。
 当時もっとも工業が盛んだった、チェ連の前身、マトリックス国だ。
 ヤンフス大陸は、四方八方から地殻変動により複数の大陸が合わさることでできた。
 大陸内部には、東側だけを開いて円形に並ぶ大山脈、ベルム山脈がある。
 そしてベルム山脈の開かれた東側から大陸内部には、広大な内海、マトリックス海があった。
 防壁として使える大山脈と、豊富な地下資源。
 さらにマトリックス海を使った海運が、世界の運命を決めた。
 強力な兵器と、戦乱を生き延びたことにより蓄えられた経験。
 これを指導力として大陸の諸国をまとめ上げ、長い年月をかけてチェルピェーニェ共和国連邦は生まれた。
 これが、チェ連で誇りを持って語られる建国の物語だ。

 だが、なぜかその後も宇宙からの侵略は絶えなかった。
 今までどこに隠れていたのか、地の中、海の底、果ては雲の中からも敵が現れた。
 絶え間ない戦乱は、ついに惑星全体の環境破壊となって跳ね返る。
 そこへ来て、チェ連の幹部は決断した……。