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アザーウェイズ

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「この頃になると、アメリカも方針を改め始めるんだ。だから結局西日本の共栄党軍は釘付けになってしまったらしいな。そもそもそれほど多い人数が居たわけでもなかったし。結局、日本の中華民国占領地域は、中国本国が大陸と台湾に分かれてしまったのと同じように、西日本と九州北部に分かれてしまう。そして翌年に始まった朝鮮戦争では、この西日本の反省と国連の決議もあって、アメリカは大規模に介入。結果的に海上封鎖で西日本内の共栄党軍は半孤立状態になったため、たいした動きを見せずに、その後はこの体制が維持されたのさ。それで以降は東日本や日本にそれぞれの思想に共鳴するものが集まったように、共産主義者や親中派が西日本に集まり、中国地方は人民共和国の傀儡政権である西日本人民共和国が成立した。つまり事実上の中国の日本人自治領。そして九州北部は台湾とともに中華民国となっているという訳だ」
「へーそうだったんですか」
 理斗はやっと納得がいったようだった。
「これでいいか? で、二号機はどうだったかという最初の話に戻りたいんだが……」
 指摘されて理斗はやっと斉田の質問に答えていない自分を思い出した。
「すみません、全く違う話をしてもらって……あの、どうもこうもないです。二号機から突然衛星通信でやってみようなんて話が出るんですからそれは大変で……量産型なんて名ばかり、実質試製機じゃないですか」
 理斗はトラブル続きの二号機への不満をついこぼしていた。斉田の一号機は衛星通信回線による遠隔操縦は実装しておらず、第一師団への配備は万事うまく進んでいるというのに。
「仕方ないさ、一機で一分隊に相当する機兵が量産に入ったという事実、たとえ若干フェイント気味でも、国内外にアピールしておきたいのさ」
「でもちょっと急ぎすぎじゃないですか?」
「今年は戦後八〇年だろ。このきりの良い年を、国が何としても国防体制を一新する改革元年にしたかったってことさ。今までの中途半端な自衛隊という組織ではなく、国民皆兵の鉄壁な国防体制に変わったことを、周辺国にアピールするための目玉が機兵なんだから」
 梅崎一尉が二人に振り向いた。と、二人を叱りもせずに嬉しそうに無駄話しに加わってくる。八〇年平和が続く日本の自衛隊では、ままよく見られる光景だった。
「国外的にそうだが、国内対策でもあるんだぞ。君たちが小中学生くらいの話だから知らないだろうけど、政府が出した国防改革案の中に徴兵制導入が入っていて、国民の半数近くが反対したんだ。国が国民の命を軽視し始めたってね。それに対して防衛省がぶち上げたのが機兵計画なのさ。前線はロボットに戦わせるから、国民はあくまでも銃後の守りです、ってね。全然準備すらしてなかった計画を持ち出して、十年後の今年には実用化できると半ば強引に推し進めた手前、建前上でも間に合わせないといかんだろ」
「国民皆兵はどうしても必要だったんですか?」
「まあスイスのような国にしたいというお偉方の願望だな」
 理斗は東日本自治連邦領の国民であった当時、そのアメリカに頼りきった国民性に不満があった。一方、完全な独立国として自国のみで防衛せんとするこの日本。そして永世中立国としての高潔なイメージ漂う国に少年時から憧れていた彼は、高校卒業後すぐに家族と離れこの国に移民としてやって来たという経緯があった。
 第二次世界大戦後に独立したあと、どの国とも組することない道を決めた日本は、国力を高めるために、戦前の日本国民の家系であれば移民が簡単にできるのだった。

 三尉である斉田は、基本的には幹部食堂を使うべきなのだが、理斗と昼食を摂るときは、ともに曹士食堂へ行くのが常であった。昨日まで日出生台演習場で機兵の連続耐久試験をしていた彼は、今日久しぶりに理斗と昼食に連れ立つ。
 斉田の口に次々と白米が吸い込まれていく様を見ながら、理斗は機兵一号機について訊ねた。
「演習での試験どうでした? 普通科との随伴演習だったんですよね?」
 斉田の演習帰りの黒く日焼けした顔のなかで、白目がさかんに動く。日焼けすると、なぜ眼の動きが気になるのか、と理斗は思う。
「まあまあだな。予定していた試験の結果は全部目標値に達した。予定外で新型のバッテリーパックを試したんだが、今回の演習メニューで三日持ったよ。ただ一点だけ残念だったのが、とうとう五日目に腰部のアクチュエーターが壊れてさ。整備なしで一週間もってくれればいいなと思っていたのだが……もしかしたら新型バッテリパックの重心が悪い影響を与えているのかもしれない。重量は規定値内なんだが」
「そうですか――」
 斉田は理斗の相槌を無視するかのようにテレビへと視線を移した。どうやら流れ始めたニュースが気になったようであった。
 テレビには、美しい女性アナウンサーの上半身が映り、駐屯地内では決して聴けないような美しい声でニュースを読み始めたところであった。
『昨年来行われていました中国と日本のエイワース協議、すなわち核融合発電および高度水循環システムの共同開発交渉が本日決裂に至ったことがわかりました――』
 理斗は斉田が顔を顰めるのを見ると同時に、食堂のあちこちからあがった小さなどよめきを聞いていた。
 エイワースついては知識を持っていた理斗だったが、交渉決裂がどのような意味を持つかについてはそれほど興味を持っていなかった。まだ移民してから日も浅く、日本の政治情勢がよくわからないということもあるのだが……。

 ――エイワース(AWAERS)とは、高度水電資源システムというのが正式名称である。
 これは主に二つのプラントシステムからなっていた。
 ひとつは高度水循環プラント。これまでは下水道の汚水をある程度浄化して河川や海に放流していたが、上水道に戻せるまでに高度な浄水衛生処理をするシステムである。これによって従来上水道に使っていた水資源の四〇パーセント以上が節約できるようになった。またこれに海水淡水化装置がハイブリッド化され、雨水や河川への水資源依存率は七〇パーセント低減されていた。
 もうひとつは核融合発電プラント。上記の高度水循環プラントにはかつてない規模の大量の電力が必要とされ、従来の火力発電と再生可能エネルギーのみの発電力では賄えなかった。それを核融合による発電力で可能にすることができたのである。これは既に脱原発を成し遂げた日本では、環境に影響をもたらす火力発電を大規模に増やすことは現実的でなく、また再生可能エネルギーも限界であったことから、官民挙げての総力の末に実用化されたものだった。
 世界的に貴重な水資源と電力とを一気に解決したシステムを、アドヴァンスドウォーターアンドエレクトリックリソースシステム(Advanced Water And Electric Resource System)、略してエイワースと呼んでいた。

 斉田はお茶を口に含んで飲み込むと、眉間に皺を寄せて口を開く。
「やっぱりこうなったか、ある程度予想されてしていたというか、ほぼ当然視されていたが」
「これ、具体的にはどんな問題があるんですか? 最近よく報道されてますけど」
 理斗は機兵開発部に配属されて以来、仕事にかかりっきりで殆ど知る機会を持っていなかった。
作品名:アザーウェイズ 作家名:新川 L