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アザーウェイズ

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 山口と呼ばれた男は、女性アナウンサーに軽く一礼すると話し始めた。
『はい、直島付近は日本共和国の岡山県と、香川県の境界未確定地域がありました。これは戦前からの名残なんですが、この問題は漁業権問題となり、さらに一〇年ほど前からわが国の先進的な技術による養殖場が中国側の漁業環境に影響を及ぼしているという主張をし始めていたこともあり、それらへの抗議から西日本人民共和国に駐留する中国軍の領海侵犯問題が発生していました。今回の上陸は、その示威行動がエスカレートしたものと一見思われますが、問題はそう単純ではないようです』
『それはどういうことですか?』
『はい、実は今年から高松で本格稼動し始めたエイワースの技術提携交渉が昨年末より不調であることが報じられてきましたけれども、そのころよりこの海域での領海侵犯が増えているのです。先日交渉が完全に決裂したことが直接の上陸の要因と思われます』
『あの、交渉決裂と上陸がいまひとつ結びつかないんですが』
 解説委員がパネルを持ち出し、四国周辺の地図を指し示した。
『はい、それには西日本人民共和国とわが国日本の成立した経緯があります。戦後日本の高度経済成長の時期に、中国は西日本人民共和国の範囲が実際は四国も含まれているのだと一時的に主張したことがありました。根拠はアメリカ軍内部で戦時中に密かに計画された旧日本の分割統治計画にあります』
 ここで、その分割統治計画の図が表示された。それには旧日本が四つの色に分割され、ソビエト、アメリカ、イギリス、中国の四カ国に分割されることを示していた。
『ご覧の通り、アメリカの計画ではここ四国が中国の統治となっています。しかし、これはアメリカ軍内部で検討されただけであり、大戦中にアメリカが他国に披瀝したことはありません。それを中国は戦後見つかったこの図を根拠として四国も中国に分割されるべきだと主張し始めたわけです。しかも大戦中に蒋介石はアメリカ大統領からその話を秘密裏に受けていたと言う実証不可能な話で主張するようになりました』
『すると、現在の西日本人民共和国の国土はどうなるんでしょう』
『それについてはもともとイギリスと交渉し、アメリカの承認により分割された地域なのだから正統的なものだとしています。四国ももともとその計画だったのだから西日本人民共和国に属するものだというわけです』
『しかし、それは今まで表立っての主張ではなかったように思われますが』
『はい確かに中国はその主張を殆どしてきた記録はありません。ですが、交渉決裂に至ってから、事態が急変しました。即時の返還要求は、外務省筋ではもはや暴論になっているということです。その実力行使が今回の上陸に繋がったのではないかと、内閣では見ているようです――』
「へー、そんなことがあったのか」
 朝食を頬張りながら理斗は、テレビのニュースを眺めていた。
『上陸した武装集団は、ほぼ中国軍だと政府は断定したようですが、中国への抗議とその反応はどうなっているのでしょうか』
『はい、中国は政府としては軍隊に命令を出していないと主張しています』
『今回は自衛隊が出動しなかったようですが何故ですか?』
『五名程度の小規模の集団だったことと、上陸時間が短時間だったため出動には至りませんでした。今朝ですが、官房長官が緊急の記者会見を開き、今後は中央即応集団を活用して同じような上陸があった場合は当然自衛隊出動の可能性はあると述べていました。次に上陸があった場合はおそらく自衛隊が出動するのではないかと思われます』
『すると、戦後初めて、自衛隊が敵に発砲するかもしれないわけですね』
『はい、そういうことになります。わたしたちは歴史上重大な岐路に立たされているといえるでしょう』
『ありがとうございました』
 ニュースの解説が終わり、理斗は眉間に皺を寄せながら昨日のことを思い出した。
 それは今日から精鋭部隊と名高い中央即応集団の一部隊、中央即応連隊との共同演習をするよう命じられていたことだった。
「まさか、この俺が実戦に出ることがあるのか?」
 理斗は、いまこの瞬間に初めて、戦場というものが肌身に迫っている感覚を知った。そして、この国の歴史が、自分の双肩に初めて重みを加えている気がしていた。

    †

「洞見一曹殿、どうですかこの車の乗り心地は」
 中央即応連隊の山本士長はアクセルを軽く踏み込むと、隣に座る理斗に感想を訊いた。
 理斗は軽装甲機動車には初めて乗車していたが、椅子に座ったときから装甲車特有の狭い車内と硬い乗り心地に閉口していた。
「まあまあですかね。見た目よりはいいかな」
「ははは、気を遣わなくたっていいんですよ。最悪でしょ〜これ」
 笑っている山本士長の器用な運転の様子に、理斗は今度はお世辞ではなく本心から返した。
「運転がうまいからかな」

 突然命令を受けた防衛大臣直轄の機動運用部隊、中央即応連隊との合同訓練。
 それは中央からの指令で、中央即応連隊と作戦行動を取る手順を確認するよう緊急に決定されたものだった。
 朝礼時、武藤中隊長は部下達を前に訓示を垂れていた。
作品名:アザーウェイズ 作家名:新川 L