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おつかれさまです、ユリリカ探偵社

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「え? なんの話だよ? つか、お、俺が誰にもかまってもらえないって、そんことねーよ」
 谷田部は否定し続けるのみだ。
 笑っている百合に、ひばりが脇を突付く。
「どうやってみて。少しは声優の仕事に役立ちそうなの?」
「きゃん! ちょっと!……そうね。わからないけど、やっぱりやりたくないかも」
 ひばりの手をつねりながら、そして泣きながら戻ってきた梢を見ながら、百合はこの四人が集まっている空間を不思議に思う。
「これって……」
 クラスが分かれる直前の、この急に親しみが増す雰囲気。
 今迄特に意識したことなかったが、今は何故か好ましく、そして大切に思える。
「何で今迄何年も気付かなかったんだろう……もしかした最近急にいろいろな経験したからかな」
 そう呟く百合の隣では、ひばりが泣き笑ってつねられた手に息を吹きかけていた。


第七章 拒まない愛情

 その後、谷田部の問題はなくなったようだ。
 谷田部が一度ピザを配達したが、優子には普通の服と態度で出迎えられたという。
 一方、凛々花はこの成功に気をよくしていた。
 家でも学校でも得意満面の笑顔。
「これできっと高等部の制服着られるよね! あと二ヶ月か。すごーい楽しみっ!」
 心の底から嬉しいのだろう、凛々花の眼が少しずつ開いていた。
 そう、昔のように、あのパッチリとした、鈴を張ったような眼に半分近づいて。
 その眼を見て、百合は嬉しい。
 また昔のような幸せな日々が送れるのかもしれない。
 希望に満ちた未来が、百合の頭のなかにぼんやりとだが、少しずつ描かれていく。
 しかし、凛々花の得意満面さは、自信過剰の顔も覗かせていた。
「この調子でどんどん仕事請けようよ! ね、お姉ちゃんいいでしょ?」
「谷田部さんの件は特別だって言ったでしょ」
 百合は冷静に反論する。
「ちぇっ。いいよじゃあ一人でやるよ」
「ちょっとお父さんの言ったこと忘れたの……」
 百合の言葉を最後まで聞かずに、凛々花はぷいと背中を見せて、いつものように自分の部屋に行ってしまった。
「もうどうしよう……」
 百合は悩んだ末、携帯電話を手に取ると電話をかけ始めた。
「もしもし、お母さん?――」

    §

 その二日後のこと――
 凛々花は放課後、スーパーで夕飯の食材を買ってから帰宅した。
「お姉ちゃんいないの?」
 昨日、百合は放課後にどこかに出かけて夜になってから帰ってきた。凛々花がその理由も尋ねてもはぐらされてしまい、不審に思っていたのだった。
「今日もいない……」
 凛々花には疑心暗鬼の表情が浮かんでくる。
「まったく、どこに行ってるの!」
 夕食の準備をせずに、凛々花は一人鬱々と考え始めた。
「まさか、探偵をしたくないからって、あたしを置いてママと暮らすつもりなの!?」
 凛々花は自室に行き、アルバムを眺めた。
「もう……あたしどうなるんだろ、このままだと……」
 次第に呼吸が大きく息苦しげになっていく……。
「ブログ作ったのに探偵の依頼なんて全然来ないし……あたし高等部に進めるのかな? あの制服着られないのかな……?」
 そして不意に頭に浮かんできたのは、あまりにも大胆な考えだった。
「そうだっ! 何か事件を解決すれば有名になって依頼も来るよねっ! お姉ちゃんの許可なんていらないよ。パパだってあたしが活躍したら喜んでくれる筈!」
 寝転がっていたシャロにそう話しかけると、
「はっ! こんなことしてる場合じゃない! 実績作って依頼増やしてやる!」
 凛々花はひとり叫び、大慌てで着替え、家を飛び出していった。

 つい先ほど陽も落ち、暗いなかにネオンだけが輝く繁華街をひとり歩く凛々花。
 おしゃれな服に着替え、眼も以前と違い美しく開きかけているので、凛々花はどこからどう見ても美少女と呼べるものだ。
 歩き方はゆっくりと物憂げな様子。ナンパされればすぐついてくるような隙だらけの女子中学生。
 凛々花はそう見えるようにわざと歩いていた。
 狙うのは、あの事件の犯人。以前、朝のホームルームに副担任の秋波茉莉衣先生から注意するように言われていた、女子中高生が偽のスカウトをされたあげく被害に遭うというもの。
 その犯人をユリリカ探偵社として捕まえてみせる。
 凛々花はその思いで、スカウトの声がかけられるようにと、表通りや裏道をぶらぶらと歩いている。
 勘に頼り、気の向くままに道を選んで歩き続け、ある裏通りの道を三度目に歩いているときだった。凛々花は後ろに何かの気配を感じる。
「(なにかしら?)」
 ゆっくりと歩速を緩めて立ち止まり、さりげなく振り返ってみるが、誰もいない。
「(あたしが探している連中とは違う気配のようだけど……)」
 立ち止まったまま、後ろをしばらく眺め続ける。狭い道の交差する辺りに電柱やメイド喫茶の看板などがある辺りをまじまじと見続けていた凛々花は突然叫んだ。
「誰! 誰なのよ!」
 だっと駆け出して道を戻ると、電柱の陰を見、次いで角のビルの陰を見渡した。
「おかしい! 誰もいないっ!」
 急に駆けたからか、ハアハアと息をついて誰に言うともなく言葉を発した。
「なんだなんだ?」
 通りがかりの買い物客やサラリーマンやら数人が、そんな凛々花を見て驚きの言葉を発している。
「あせったー、いきなりなんだ?」
 若い学生らしき三人組みが、突然近くに走ってきて怒鳴った凛々花に驚く。
「あれだよ、あれ、中二病なんじゃねーの」
 眼鏡をかけているひとりが茶化すように言っていた
「うわっ! いてて! キャハハ」
 そんな会話をしながら、凛々花を興味深げに、そして不躾に見続けている三人に背を向け、凛々花が再び元の道を進もうと踵をめぐらしたときだった。
「呉波さん!」
 いきなり横っ面を平手で打たれるような女の声が飛んだ。聞き覚えのある声。凛々花は、まさかと思いつつ、その声のするほうを見た。
「やっぱり呉波さんね。こんなところで何してるの?」
 副担任の秋波茉莉衣先生だった。普段は見惚れるほど美しい顔だが、今はきっときつい表情で凛々花を見つめている。
「い、いえ、特に何も」
 射抜くような茉莉衣先生の眼から逃れるように、しどろもどろになって凛々花は答えた。
「最近、怪しいスカウトが多いから、あまり繁華街をうろうろしないようにって、以前に注意したばかりでしょ。何してたんですか? 見た感じ、どうやら、特に目的もなくこの辺をうろうろしてたようだけど」
「いえ、ちょっと用事があって……」
「本当? 最近、アルバイトか何か知らないけど、あなたが何か危険なことをしているっていう噂を耳にしたわよ。アルバイトは退学って知ってるわよね? 用事が済んだらすぐに帰りなさい」
「はい、わかりました」
 退学と言われてしまえば、茉莉衣先生の言うことを聞くほかはない。凛々花は先生と別れると素直に家へ帰るべく、駅の方角へ歩き始めた。
「(さっき感じたのは先生の気配だったのかな?)」
 そんなことを考えながら、道を進む。
 あと、二つほど角を曲がれば駅まで真直ぐ進むだけというときだった。
「こんばんは」
 再び不意にかけられた声。