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おつかれさまです、ユリリカ探偵社

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 聞いた直後にじわっと目元を濡らし、それからずっと赤い眼をした梢は抑えようのない気持ちそのままに皆に呼びかけた。
「み、皆さん、早く調べて解決しましょう……わたくしもう限界で……」
 心痛のあまりよよよと泣き崩れそうな梢を見ると、百合も溜息が出てくる。
「調べるっていったって、どこから調べればいいのかさっぱりだし、どうしたらいいかしら」
「そんなこと言ったって、調べなきゃどうしようもないんだから、とにかく調べようよお姉ちゃん。それとも一日中尾行して解決の糸口を探る?」
「それは……昨日もホント疲れちゃったし……凛ちゃんは尾行するつもりなの?」
「うう……それは……」
 凛々花も昨日の疲れを思うと及び腰だ。
「あのさ、調査の範囲なんだけど、工作業務が駄目って言っても、俺が演技してそれを優子さんに見てもらうだけなら俺の勝手だよな? そのお膳立ての部分だけ協力してもらうってのは駄目か?」
「まあ関わる内容にも依るんでしょうけど、それはグレーゾーンね。実際、露骨に工作業務やりますって宣伝してる探偵社もあるのよ。わたしとしては、それくらいならまあしてもいいかなって」
 否定しようのないポイントに百合は肯定するしかない。
「それなら、俺が演技することで、俺のことを諦めてもらえるポイントがわかりさえすればいいと思うんだが。それで成功報酬ってことにしよう」
 成功報酬という言葉で凛々花が身を乗り出した。
「うわっマジですか? それなら……誰かを谷田部さんの彼女にして見せ付けるとかじゃ駄目ですか?」
「嫉妬で恨まれてその女の子に被害が出たりするのは避けたいんだよな」
 あっさり谷田部に拒否されて凛々花は座り込んだ。だが、それにへこたれず「考える人」のポーズをとって頭をフル回転させ始めている。
「それなら同性愛者の線は?」
 百合の提案に、凛々花がむくっと顔を上げて反論した。
「ダメダメ。優子さんがBL好きだったらどうすんの? きっと別の視点からストーカーになるよ。最近のBL好き女子の裾野は広がる一方だからね。優子さんだってBL好きの可能性充分にあるから」
「そう……」
 がっかりしている百合の傍らで、もう一人、「考える人」のポーズを作っている人がいた。梢である。谷田部にあまり気持ちを悟られるのも恥ずかしいので、静かにして必死だ。
 そしてその梢がふと顔を上げた。
「じゃあ家族から接触するのってどうでしょうか? 家族環境を知れば取っ掛かりも攫めるかもしれません」
 相変わらずパソコンをいじり、探偵気取りなのか勝手に淹れたブラックコーヒーを苦みばしった顔で飲んでいるひばりが口を挟む。
「なるほど〜それなら本人の過去や性格もより攫めるかもしれないから、対策の選択肢が増えるってことか。あ〜それに家族からやめるよう仕向けさせるという手もあるかも。でも実家はどう調べる?」
「手っ取り早いのは電話かしらね。さっきの発信専用電話の出番?」
 百合の言葉に、凛々花が素早く反応する。
「あっ、あたしやるっ!」
 成功報酬という言葉が出て以来、俄然やる気の凛々花だ。それに探偵ならではの道具を早く使ってみたくてたまらないのか、おもちゃに気が急く子供のようでもある。
「なんか適当に営業電話を装えばいいんじゃないの? 華麗な営業トークすれば教えてくれるかもよ〜」
 気楽そうに提案するひばり。
 コーヒーがちょっと苦すぎたのか、近くにあった茶菓子入れの蓋を取り、中のかりんとうをポリッと噛んだ。
「それすっごいストレートだけど、そういう方が意外といいのかな。ちょっとかけてみるね」
 凛々花は咳払いし、声のトーンを整えるといとも簡単に電話をかけ始めた。
 彼女の行動力は欠点なのか利点なのか、結果を見るまでは何とも判断できない。
「あ、こちらは、えーと、ひばり不動産ですが、お宅の実家を……あ、あのっ……売りませんか? いや、是非買いたいので住所教えてください…………あ、はいすみません」
 電話を切ってがっくりと肩を落とす凛々花。
「って何であたしの名前!?」
「ごめんなさーい、つい視界に入ったから」
「ま、いいけど、その会話はちょっとキビシイかな〜」
 提案したひばりも残念そうだ。
 そもそも大人を装って作った声が少年のようでしかなく、そのうえ話し方が中学生そのままだったこともあり、最初の一言からダメダメ感が漂っていたが……。
「やっぱり中学生ね……多分今の電話じゃ番号拒否されてるだろうから、あと一回線しかないわよ」
 少々呆れ気味の百合に、静かにして必死な梢が再び提案する。
 考える人ポーズをといた様子から察するに妙案らしい。
「あのぅ……えーとなんかのNPO法人がなんかのアンケートとかで、一人暮らししている方の実家調査をしていますとかなんとか言えばどうでしょうか」
 かなり漠然としているが、百合にはヒントになったらしく頷いている。
「ふむふむ……それならいけそうかも……」
「…………」
「…………」
「…………」
 そして呉波姉妹が無言で見合っていた……。
 何かを訴えている意味ありげな視線を交わすのみ……。
「……あ? それでどうするのお姉ちゃん? 電話しないの?」
「わたしが!?」
「お姉ちゃんじゃなくて誰? あたし今かけて声聞かれているから無理だし。人に中学生ねって言うくらいなんだから、高校生らしく手本見せてよ。それに声優志望でしょ、こういうときこそ頑張ってよ」
「うむむ……ま、仕方ないわね」
 百合はそう言って伊達めがねをすちゃっと装着すると、顔つきも社会人のように一変。
 どうやら簡易コスプレみたいなもので、これで気分を変えたつもりらしい。
 そして初々しい新人OLのようにコホンと可愛く咳払いしてから電話をかけ始めた。
 設定を考えないで電話するところは意外と似てる姉妹である……。
「……出ないな…………あ、出た。あの、すみません。こちら……えーとですね……JKKTというNPO法人なんですが――」
 ややたどたどしいが、まるでアナウンサーのような話し方に加えて百合の澄んだ声によって、いかにもそれっぽく聴こえる。
「JKKT? それっぽい名前ね。ジャパンなんとかって感じ?」
 ひばりが感心している。
「――ええ、えーと……実家に帰って家族を大切にしよう会という名前の略称です」
「と思ったら、何か身近な感じのするNPOだった!」
「それでですね、都心で一人暮らししている人と実家の関係について、実態調査をしていまして、必要ならば家族関係改善の為の提案およびサポートをしているんです……具体的に? た、例えば、一人暮らししている皆さんに実家に帰ってもらって、ご家族のありがたみを知ってもらおうとかでしょうか……とても立派な活動をしているNPOなんですよ。ですから、実家の住所を教えてくれませんか? フヒ」
「緊張しすぎだよ! お姉ちゃんのアニメオタクサイドが現れて変な語尾があっ!」
 凛々花が思わず突っ込まずにはいられない。