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おつかれさまです、ユリリカ探偵社

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 玄関からは凛々花の覚えのある声が聞こえてくる。自身玄関に出てピザを受け取ったことがある姉のクラスメイトの谷田部だ。
「えーご注文は、Lサイズのミートデラックスにダブルチーズとダブルアボカドですね」
「ほほ〜、いい匂い〜」
「ありがとやした〜。そしたらあの件頼んだからな。期待してるぜ」
「できるだけのことはするわ。ピザの無料券もいただいたし」
 ピザを受け取った百合は喜色満面の笑みだ。
「しかし探偵かあ。調べて謎を解く仕事って面白そうだよな。いつも新しい発見がありそうでいいじゃん」
「発見ね〜どうかしら……」
 凛々花はそんな会話を聞いた。
 谷田部の帰る音がし、百合がピザを抱えて戻ってくる。
「ほら、今日は豪華なトッピングだよ〜」
 待ち受けていた凛々花が口を開く。
「お姉ちゃん、さっきの会話、もしかして食べ物に釣られて仕事引き受けただけなんじゃないの?」
 びくっとした百合だったが、凛々花に向き直ると笑顔で答える。
「今回は特別よ。凛ちゃんがあんなブログ作るから断れない雰囲気になったんだからね」
 ちょっと怖い。凛々花はぞっとして視線をそらし、あわてて話題を変えた。
「あ、あのさ、通称考えてくれたらすぐブログ変更するよ」
「そう、じゃあとで言うわ。とりあえず熱いうちに食べましょ」


 なぜ妹の出す条件に素直に乗ってしまうのだろうか。
 百合は風呂に浸かりながらそんなことを考えている。
「わたしと凛ちゃんだから『ゆりりん探偵社』でいいじゃない……こういうの苦手なのよねー全然思い浮かばないよーまったく、探偵社の通称なんて別になんだって……」
 ふと、さきの探偵社が面白そうだと言った谷田部の言葉が思い浮かんだ。
『いつも新しい発見がありそうでいいじゃん』
「発見か……見つかるのかなそんなの……」
 よくわからないよ、と不満げに顔を湯に潜らせると、お湯がざぱっと溢れた。
「……!? 発見、見つける、ユリイカ? わたしと凛々花だからそれをもじってゆりりか……ユリリカ探偵社でいいんじゃない?」
 ざばと立ち上がる。自分としてはなかなかの命名だったのか、百合は裸のまま廊下を走り、居間に駆け込んだ。
「凛ちゃん、ユリリカだよ! 発見! アルキメデスがお風呂から裸で叫んだユリイカとわたしたちの名前をかけてユリリカ探偵社ならいいでしょ?」
 テレビを見ていた凛々花が何事かと振り返る。
「ん!? 何で裸っ!? 恥ずかしいなあっもおっ! わかったよそれでいいからっ! それ、アルキメデスのコスプレのつもりなのっ!!!?」
 百合のあられもない姿に、慌てて手で顔を覆い、指の間からちらちらと覗く。
 なんという白く滑らかな体なのだろうか。
 その上気した肌の艶めかしさについ見惚れてしまいそうになる。
「……? きゃっ!」
 やっと気付いたのか、百合は胸と股間を素早く手で隠すと風呂へ引き戻って行った。
「まったくもう」
 凛々花は文句を言いながらも、床の水滴をタオルで拭き始めるのだった。


第五章 初依頼

 日曜日。
 姉妹は眠気をこらえ、赤井優子の自宅を目指していた。
 赤井優子。
 それは谷田部から依頼され、この度『ユリリカ探偵社』の調査対象者となった人物だ。
 早朝でありまた昨日の疲れのせいか、凛々花はいかにも重そうに足を運んでいる。
「ねぇ〜今日は大丈夫なの〜?」
「多分ね。これまで五週連続で注文して、土曜か日曜どちらかだったらしいから」
「昨日みたいに全然収穫ないのとか本当にイヤ」
 妹の愚痴を聞きながら、百合は昨日のことを思い出す。
 そう、二人は昨日も同じ道を歩いていた。
 とにかく彼女の顔を見なくては、何のイメージも湧かないから。
 そんな理由で二人は昨日の土曜、授業の終わった午後から谷田部に教えられた住所に来てみたのだった。
「へへ、どんな女の人か興味あるじゃん。ばっちり探っちゃうよ〜」
 優子の自宅を前にそう嘯いた凛々花。だが、アパートの二階の彼女の部屋には本人の居る気配がなく、帰宅を待っているうちに日が暮れてしまった。
 その後、突然窓越しに明かりが点き、本人を見る策も浮かばず、そのうち出てくるかもしれないと更に一時間ほど待ったが、結局寒さに耐え切れず帰宅したのだった。
 今日こそはピザを注文して出てきた本人を確認できるだろう、そして何でもいいから手がかりが欲しい。
 アパート近くまで来ると、凛々花は様子を伺うために向かいの家の塀に寄り添い、アパートの二階をちらちらと観察した。
「いるかな?」
 百合も二階の通路に並ぶ5つのドアを端から順番に眺めた。その通路の手摺りは鉄製らしく、何回も塗りなおされた厚塗りの黒いペンキがデコボコに剥げ落ち、所々見える茶色の錆びが淋しさを漂わせていた。
「今日もいるかいないか分からないわね」
「様子見に行ってみようか?」
 鉄の階段は滑りやすそうで、星型に出っ張った滑り止めの角も充分磨り減ってあまり役を果たしていない。
「ここね」
 百合は部屋番号を見上げた。
「ピンポンダッシュしようか」
 凛々花が冗談交じりに言った瞬間だった。
「「!?」」
 突然ドアの奥から響いた物音。二人は咄嗟に左右に飛び退る。
 続いて、ガチャリと鍵をあける音がする。左に退いた凛々花は、自分がドアの開く側に居ることに気付いたのか、慌てふためいて踵(かかと)を巡らすと階段のほうへと走っていった。
 ズズズズルッドン! ドン! ドン!……
 鈍い音が響きわたるなかドアが開き、ひとりの若い女性が出てくる。
 女性は凛々花が逃げた方向とは逆の通路の奥へわざとらしく歩いている百合を一瞥すると、ゴミ袋を重そうに持ち上げ階段の方へと歩き始めた。
 コン、コン、コン、という階段の音が響いて女性の気配が遠のいていくのを感じ取ると、百合は踵を巡らしすぐに後を追った。
「あら、どうしたんですか? 大丈夫?」
「ええ、階段を滑っちゃって」
「立てる? 病院に連れて行ってあげましょうか?」
「いえ、大丈夫です。おかまいなく」
 百合は凛々花と女性のそんなやり取りを陰から覗いた
 ショートストレートの黒髪に中肉中背。谷田部から聞いていた特徴に合致する。赤井優子に間違いないだろう。
 優子は道路脇のゴミ集積所にゴミ袋を置き、更に道路を進んでいく。百合は階段を下りると、階段下でうずくまっていた凛々花に声をかけた。
「お出かけしたみたいね、よかった。歩ける?」
「イタたあー」
 腰をおさえている凛々花を、百合はさすってあげる。
「うん、歩けそう」
 そう言いつつ、最初は力が入らないようだったが、しばらくして凛々花がお婆ちゃんのように腰を曲げながらぎこちなく立ち上がると、優子はもう戻ってきていた。どうやら角のすぐ先にある小さな酒屋で買い物をしてきただけらしい。
 百合はしまったと思ったが、もう平然としているしかない。
 優子は二人を見て、再び話しかけてくる。小さなビニール袋を片手にし、中身は缶ビールのようだ。
「気をつけてね。この階段滑りやすいから」
「あ、はい」
「可愛いな……姉妹?」
「はい……」
 百合は顔を伏せながら答えた。顔を覚えられたら後の仕事がやりにくい。
「仲良さそうで羨ましいな……」