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おつかれさまです、ユリリカ探偵社

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 昨年末のことである。彼はあるアパートの一室にピザを配達した。独身向けのアパートに相応しく、ピザも二、三人用の小さいサイズである。
 初めて届ける家で、谷田部は少し緊張しながら呼び鈴を押した。若い女性が出てくれ、と願うのは毎度のことなのだ。
 その日出てきたのは期待通りと言えた。彼よりもやや年上と思われる二十歳過ぎの若い女性。しかもなかなか美しい。
 すぐに浮かんだスケベな妄想に気付かれないようにお釣りを渡そうとした谷田部は、次の瞬間の出来事に吃驚した。いきなりその女性に抱きすくめられたのだ。まさに妄想が現実となった瞬間だった。
 だがそんな素晴らしい時間もごく僅かで、女性はすぐに谷田部から離れていた。戸惑っている彼に女性が謝る。
「ご、ごめんなさい」
 我に返ったような女性を見て、何かの勘違いかと谷田部は思った。
 次いでその翌週のことである。
 再び同じ人物から注文があった。小さなピザ屋で配達員は三人しかいないこともあり、たまたままた谷田部が届けることになった。
「今回もラッキースケベがあればいいな、いやあれは偶然の幸運などではなく故意だった。そう、もしかしたら一目惚れされて相思相愛となり、これから毎日やってもらえるかもしれない、そう、デイリースケベだ!」
 期待と妄想に胸を膨らませながら呼び鈴を押すと、意外な展開が待っていた。
 眼の前の彼女は、水着姿!?
 今は一二月だというのに……?
 そんな疑問を払拭したのは彼女がビキニ姿だったということ。
 白地にブルーのグラデーションが入った爽やかさと、紐タイプという際どさに、今度は紐がほどけていく妄想が先走って緊張度は前回の比ではなかったという。
「こ、これは!? 試着にしても夏は半年後だし!?」
 どぎまぎしながら妙な期待をした彼だったが、相手の態度に次第に冷静になる。
 それは相手がとくに変わったところのない、日常の服を着ているときとなんら変わりない態度だったからだ。

「谷田部くん以外が配達したときはどうなの?」
 百合が素朴に感じた疑問だった。
「とりあえず仕事仲間には言ってないわ。あ、違うぞ。こんないい思いを先輩に奪われたくないって思ったわけじゃないからな。た、単純に、言っても信じてもらえないと思ったからだ。だから他の人のときはわからん」
「あのぅ、よくわからないけど、相談内容ってそのお姉さんとイイ関係になりたいってことで良いのかしら……? それ探偵の仕事じゃないんだけど……」
 百合の冷静な口調に、谷田部が即座に否定にかかる。
「いやいや違うって、最後まで聞いてくれ」

 その翌週の土曜日は、その家にピザを配達することはなかった。前回は二回とも土曜日の夜だったので、もしかしたら他のアルバイト員が届けたのかなと、すこし残念であった。
 だが、その翌日の日曜日に注文があった。配達も、都合よく谷田部がすることに。
 しかし、玄関先に出てきた彼女は水着姿ではなかった。しかも、表情が堅くうつむき加減で元気がないように見える。
 谷田部は残念に思い、さっさと帰ったほうがいいかなと、ピザを渡して料金を受け取りながら考えた。
 しかし、彼女は意外な行動に出る。
「あの、これよかったら……」
 おもむろに出してきた一通の手紙。いますぐ読んで欲しいと言う。
 谷田部があけると、柑橘系の爽やかな甘さ薫る便箋にかわいらしく且つしっかりとした字で書かれていたのは、電話番号とメールアドレス。そして更に一言添えられていた。

 谷田部を囲む三人全員が息を飲んで、次の言葉を待っている。
「『あなたを一目見てずっと待っていた男の人だと感じました。親しくしてくれたら嬉しいです。食事やショッピングなど色々付き合ってくれませんか』って書かれてたんだよ。マジ驚いた」
 ほぉ〜という息の合った溜息が三人から静かに洩れる。
「そのお姉さんやるわね。男の射止め方ってこんな感じみたいよ梢」
 ひばりは谷田部の胸を弓で射る仕草をすると、頷きながら梢の肩にぽんと手を置いた。
「なんて積極的なのっ……でもわたくしにはそんなの恥ずかしくて……」
 そう言ってぎゅっと唇を閉じると、短いスカートの裾をおさえた梢。
 ほわほわとしたシュークリームのような彼女がぎゅっと絞られているようで、ちょっと可哀想だ。
 というか今にもクリームがはみ出しそうで、危険な状態である。
「でもさ、俺の好みとは若干違うから断ったんだよね」
「あらあら」
「え!? 水着姿を嬉々として待ち受けていたのに応じなかったの? ああ、好みと違うって、その人胸小さかったとか? やっぱり谷田部は胸が大きい人が好みなんだな」
「あ、いや、ちが……」
 ひばりの指摘に言葉を濁す谷田部の視線は、百合と梢の胸の間を彷徨っている。
 それを感知し、梢は恥ずかしげに両腕で胸を抱くようにおさえたが、かえってブラウスの奥に想像される胸の谷間を強調してしまっている。所謂寄せて上げて状態だ。
 谷田部は露骨ではなかったものの、ちらちら見ながら言葉を続けた。
「それでさ、この前バイクで学校から帰るとき、ほら、あのパンチラ、じゃ、じゃなくて巴と富士見坂さんが手を振ったときだよ。突然そのひとが飛び出してきてさ」
「「「!?」」」
 三人同時に先日の出来事、あの、バイクに乗った谷田部の前に飛び出した女性を思い出したようだ。
「一歩間違えれば危ないところだったけど、その辺は俺の見事な回避テクニックでさ」
「いや、あれは谷田部があたしたちのパンツ見ようとしてよそ見したからでしょ?」
 ひばりが冷たい眼で突っ込んだ。
「違うって!」
「まあ、振られたから自棄になったのかねー。避けられたから良かったじゃん」
「それが良くないんだよ。バイトにはあのバイクで通勤してるんだけどさ、轢きそうになる前もバイト終わってバイクに乗ろうとしたら、こんな写真が貼り付けられてさ。よく見たら、あの人の眼っぽくて」
 百合が手渡されたものは、両眼部分だけが大写しになっている写真だ。右眼に髪がかかって陰になっているからだろうか、逆に髪の奥で瞳が光っているように見える。
 百合は写真を谷田部に返しながら言った。
「怖い……いつもあなたを見てますってことなのかしら」
「で、先週届けたときは、ずっと泣いてて、こちらが事情聞くどころじゃないしさ。ストーカーなのかよくわからんが、もう普通にピザ配達してーよ」
「代わってもらったら? 他にもいるんでしょ?」
「タイミングで丁度俺なら行かなくちゃ。お客さんとトラブルあったとか店長に知られたら怒られるし。店長そういうところ厳しいんだよ。バイクのローンも残ってるし首になったら困る」
「谷田部に悪いところないんだから、話せば店長もわかってくれるんじゃない?」
「いや、実は、断るときについ『すんません、俺もうちょっと胸大きい人好みなんで』って口滑らしちゃったんだよ」
「「やっぱそうじゃんかー」」
 綺麗に揃った百合とひばりの横で、梢はまだひとり胸をおさえている。そうするから余計谷田部が意識するのだが……。
「でさ、なんとか解決できない? 俺、人轢きたくないしさ。ほらここにもこんなうたい文句が書かれてる」
 そのページにはこのように書かれていた。