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おつかれさまです、ユリリカ探偵社

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「ふふ……やっぱりこの衣装可愛いなあ」
 屈託ない笑顔で眼を垂れる百合の姿が姿見に映っている……。

 ――好きなことをしていると、時間(とき)はなんと無慈悲に流れ去るのだろうか。
「ええっ! もうこんな時間!?」
 百合は衣装を脱ぐとパジャマに着替えた。
「!?」
 気配? 百合は何かを感じ取り、後ろを振り返った。しかし、背後のドアは勿論閉まっており、誰が居る筈もない。
「……!?」
 はっと窓に近寄り、カーテンを開けてみる。しかし、三階の窓の外はいつもの風景だ。
「疲れているのかな……? もう寝ようっと」
 百合は電気を消すと、ベッドに突っ伏した。
「よっしゃー! うまくいったー!」
 隣の部屋から凛々花の叫び声が聞こえてくる。
「ゲームでもしてるの?」
 百合はそんなことを考えながら、眠りに落ちていく自分を感じていた。


第四章 駆け引き

 桜並木学園高等部の朝の教室。
 百合は席に座ってのんびりとあくびをしていた。手で隠しもしない。
 朝から何度も何度もしてるので、途中から隠すのが面倒になっていたのだ。
「百合おはよー……百合の舌ってなんか、こう、長くてエロいね……」
 ひばりの言葉に、慌てて手で口を隠す。
「おはようございます。どうしたんですか? とても眠そうですね」
 梢も丁度登校したらしく、ひばりの後ろから顔を覗かせ挨拶してきた。
「もう、昨日ホント大変で……疲れが残ってるのかなあ〜」
 百合は昨日の顛末を話した。ひばりも梢も百合が突然走っていって心配していたので、聞きたがったのだ。
 百合の話しに驚いたり、笑ったりして熱心に聞くひばりと梢を、百合は不思議に思う。
 ひばりとは長年の付き合いだが、梢とは最近親しさが増したようだ。
 女三人寄れば姦しい。
 そう、姦しくて、かつ楽しい。
 居心地の良い雰囲気に、百合も身をゆだねようと……。

 好事魔多し

 どこにでもそれは存在するらしい。
 突然ヘルメットを片手に現れた谷田部に、百合は嫌な予感がした。
 彼は教室に入るなり、真直ぐに三人のところへ駆け込んでくる。
「おい呉波。ブログが大変なことになってるぞ」
 スマートフォンを取り出し画面を見せてきた。
「ブログ?」
 三人が覗き込んでみれば、昨日開設されたばかりの呉波探偵社のブログであった。
「え? いつブログなんて始めたんだろう」
 変ね、と不思議がる百合に、谷田部は指を滑らせてスクロールして見せる。
「それがさ、呉波が載ってるんだよ」
 出てきたのは百合の写真だった。それも、昨日初めて着たあのピンキーホームズのコスプレである。
「ちょっ……!?」
 百合は谷田部の手からスマートフォンを奪い取ると隅々まで見た。数枚あるそれらの写真はすべて昨晩姿見の前でとっていたポーズである。どうやらそのなかでも色っぽいものが厳選されているようなのだ。
「おほっ」
「あら、可愛いですー」
 ひばりと梢が百合のコスプレ姿にそれぞれ反応している傍らで、まったく身に覚えのない百合は当然のごとく眼を白黒させている。
「ぬあっ! なんなのこれ!?」
 ブログの一番下にはこう記されていた。
『採用調査、浮気調査など、各種調査ご依頼受付中です。契約成立した方には、さらにセクシーな写真のダウンロードキーをプレゼント!!』
「凛ちゃんだわっ!」
 百合は叫ぶなり携帯を取り出し妹に電話した。
『んーなにー?』
 電話口から凛々花の呑気な声が聞こえてくる。
「凛ちゃん、ホームページのわたしの写真だけど――」
『』
「ガチャンって、なっ! あの娘切ったわ!」
 あらあら、と周りの友人たちは珍しく怒った百合を見守っている。
「中等部に行ってくる」
 立ち上がった百合だったが、ひばりが後ろからセーターを引っ張って制した、がすぐに離した。谷田部が百合の胸に視線を移したからである。ひばりは代わりに腕を攫んだ。
「ちょっと、行ってる時間なんてないでしょ遠いんだから。あとにしなさいよ」
 言われて不承不承座った百合は眉間に皺を寄せ、口はへの字型だ。
 その傍らで、谷田部がおずおずと話しかけてきた。
「お、あのさあ、お取り込み中のところ悪いんだけど、そのブログ見つけたのも探偵社の検索してたからでさ。実はちょっと相談があるんだ」
「へえ、何よ?」
「あ、あのっ、どんな相談ですか谷田部クンっ」
 何故か相談されていないひばりと梢がそれぞれ素早く反応する。
「ほら、俺バイトしてんじゃん」
「初耳ですそれ!」
 梢は控えめな彼女には珍しくずいっと前に乗り出してくる。先日ひばりに『もっと積極的にならないと』と言われてから本人も意識しているようだ。
「ああ、俺ピザ屋でバイトしてるんだ。呉波んちにも配達したことあるんだけどな」
「そんな……」
 梢は口元へ手を当て後退った。眼にはみるみるうちに赤みがさし、今にも涙が出てきそうで、わなわなと震えている。
「え? 富士見坂どうしたんだ? 俺か?」
 谷田部は梢の反応にあたふたとしている。
「梢のところパンも売ってるからね、当然ピザも。だから一応ライバルになるのかなあ」
 ひばりが谷田部に説明すると、梢は礼儀正しいお嬢様のイメージを崩さず、取り乱したことを謝ってきた。
「ごめんなさい……でも、これも運命かもしれません。そう、ロミオとジュリエットのように」
 狂おしそうに豊満な胸を抱くと胸の谷間が見えそう――舞台でジュリエット役が着るようなヨーロッパのドレスほどではないものの、なかなか刺激的な光景だ。
「百合さんと谷田部クンっ、そんな親しい間柄なの……?」
 嫉妬に発展しかねない梢の質問に、百合は慌てて両手を振った。
「いやいやいや、わたし、ほらピザとか、チーズ系?大好きだからたまに注文するのよね。他のお店は高いからなかなか注文できないけど、去年オープンした谷田部くんのバイト先安くて美味しいから最近続けて注文したらたまたま谷田部くんが来ただけ」
 安心した梢は興味津々で尋ねる。
「ねえ、谷田部クンっ、どこのピザ屋さん? 配達のお仕事なの?」
「そう主にね、駅前に出来たピッツァ・ウマイッツァってお店。で、その配達なんだけど、ある所に行ったとき女の人が水着姿で出てきたんだよ、しかもビキニのっ! こう、さ、こういう感じで」
 両手で上からボディラインをなぞるように動かす。バストとヒップが膨らみ、一方ウェストが締まったメリハリのあるラインだ。
「そんな……」
「へー、それでそれで?」
 再び悲嘆に暮れる梢と、代わって興味津々なひばりの隣で百合も彼女なりに驚く。
「あらあら」
「でさ、その次の配達のときにさ、一緒に食べませんか? 中で、って言われてさ」
「いやっ!」
 梢は両耳を塞いだ。
「おほっ」
 ひばりは堪らず独りで興奮しているが、百合は「あらあら」と変わらない。
「丁度二件配りで、次の配達ありますんでって断ったんだけど――」
「早く続き教えろっ!」
 息を呑む梢の隣でがっつくひばり。
「なんだよ、巴は今日は食いつきいいな。それがさ――」
 谷田部はことの全貌を説明し始めた。