The SevenDays-War(黒)
(二) 騎士と騎士
「名前ぐらい教えてくれてもいいだろう?」
「相手に名を尋ねるときは、先に名乗るのが騎士の礼儀だと聞いている」
ルドラは北門城壁の上で、西から東へと吹き抜ける風に揺れるエルセント王国旗を見ていた。
滞在を受け入れたはいいが、やることがない。横目でちらちらと飛ばされる視線が鬱陶しい。そうして一人になれる場所を探してたどり着いたのが、城壁の上だった。
ようやく落ち着けると思った矢先、先ほどの騎士が上がってきた。他の人間とは正反対な無遠慮に浴びせられる彼の視線に、早くも嫌気が差してきたところだ。
「きびしいねぇ。ま、その通りなんだけどさ」
そう言って、咳払いを一つ。
「私はアーノルド。エルセント北門の門兵長代理をやっている」
アーノルドは、びしりと姿勢を正し踵を合わせ、少し背伸びした口調でそう言った。
「門兵長代理とは偉いのか?」
「いや、そんなことはねぇんだわ」
アーノルドは「痛いところを突かれた」と苦笑いを浮かべた。
「東西南北の門兵長は、本来は騎士じゃなくて貴族が務める役職なんだ。ところが、北門の門兵長は典型的な閑職でね。あまりにも人気がないもんで持ち回り制になってさ。就任したはいいけど、任期終了まで一度も詰め所に現れないってのが通例さ。それじゃあ支障をきたすってんで、騎士を代理として置くようにしてるってワケよ。『三年務めたら小隊長になれる』っていうエサに食いつく俺みたいなのがいるのさ」
アーノルドは苦笑いを浮かべ、最後に「で、名前は?」と付け加えた。
「ガーランド・アレックスルドラ。それが名前だ。ルドラと呼ばれている」
「ルドラだって? 神話に出てくる戦神の名前じゃないか。いや、アンタなら違和感ないか。さっきの動きはタダモンじゃない」
そこでアーノルドは声を潜めた。
「アンタ、サンク卿を追ってるのかい?」
「わからない」 ルドラは首を横に振る。
「この街に来たときは、探し物は確かに街の中にあった。しかしいまは、北へと向かって移動を続けている」
ルドラの言葉に興味を持ったアーノルドは、身を乗り出して目を見開く。
「それは探知の魔法か何かで調べてるのかい?」
「厳密には違うが、似たようなものだ。説明したところで理解はできん」
ルドラの取り付く島もない言い様に、アーノルドは顔をしかめた。
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近