The SevenDays-War(黒)
―― タスケテ
“脱走者”は例外なく訴える。
―― コロシテ
黒剣を構えるルドラに繰り返し訴える。
牢獄の中では魂が滅びることはなく、肉体が消滅してもやがて回復する。それは魂が“こちら側”にあるからだ。
千年前の魔大戦の折、古代の神々は肉体のみを牢獄に封じられた。牢獄の中では凄惨な争いが続く。千年前の治まらぬ怒りがそうさせているのだ。
その戦いの余波を“魔法”として利用する方法を人間に授けたのが“魔大戦の勝者”であり、ルドラの主である。
牢獄の中に在るものは、滅びることも許されず、永遠に搾取され続けるのだ。
“脱走者”はやってくる。
死という自由を求めて。
消滅という解放を求めて。
ルドラは黒剣を使い“脱走者”から精神エネルギーをすべて抜き取った。黒剣に吸った精神エネルギーは牢獄に送り返される。それはやがて肉体を与えられ、再び終わらぬ争いに身を投じることになる。
「死ねぬのは、我も同じよ」
生気を失った“脱走者”―すでにただの肉塊―がすべて消え去るのを待つ。
ルドラは魔大戦において敗北者となった。
強者と戦う機会を与えるという条件の下、“魔大戦の勝者”であるこの世界の神に忠誠を誓った。
そして“脱走者”を始末するの黒炎の騎士となった。しかし、この千年の間、戦いと呼べるものはただの一度もなかった。
「我が望むは心躍る戦い。互いに命を賭した戦い。我は弱者をいたぶる趣味は持ち合わせておらぬ」
歯痒い。あまりにも歯痒い。
いくら唱えてみたところで、現実は違う。現実は揺るがない。
相手は抵抗もできぬ肉の塊。どちらも命を失うことなどなく、ただただ送り返すのみ。
心は沈み行くばかり。
渇望は増してゆくばかり。
ルドラは、かつて味わった至上の一騎打ちに思いを馳せる。
互いに技を競い合った好敵手ナタラ。
魔大戦が始まったことで、決着をつけられぬままになってしまった相手。
「ままならぬものよ」
ルドラを乗せた黒天馬は上空へと飛び去った。
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近