The SevenDays-War(黒)
(一) 敗北者と脱走者
「ルドラよ、また不穏な反応が見つかった。行っておくれ」
「仰せのままに」
ルドラは黒剣を携え空を翔る黒天馬に跨ると、一直線に走らせる。向かう先は、人間がガルガント山脈と呼ぶ場所だ。
それは人間がエルセントと呼ぶ都市の北西部に広がっている。
ルドラが追うのは“脱走者”だ。
千年前に起きた戦い“魔大戦”に破れた者たちを閉じ込めてある牢獄は、幾重にも張られた結界によって切り離された異空間に存在している。“魔大戦の勝者”は牢獄と呼び、人間には“魔界”と呼ばせている世界だ。
時折、牢獄を囲んでいる結界に隙間が生じる。そこから這い出てきた者、つまりは“脱走者”を始末するのが、黒炎の騎士たるルドラの役目だ。ルドラは“脱走者”を駆逐する役目を負う代わりに、世界に留まることを許された“魔大戦の敗北者”なのだ。
魔界の波動を発する異物の下へと到着したルドラは、すぐさま背中の黒剣を開放する。
相手がどれだけ強大な力を有していようとも、“脱走者”である限りは黒剣の敵ではない。この世界において、その理不尽な定理が覆されることはない。
ルドラの目の前でくねり動いているのは、ただの肉塊だった。
これは二つの世界の間に張り巡らされた結界の影響だ。強大な力を持つものが結界を抜けようとすれば、自らの強大な力によって身体を千々に引き裂かれ、こちらの世界に到着する頃にはこのような姿に成り果てる。
「分かっていても……な」
これが“脱走者”の正体だった。
このまま放置しておけば、近隣の野生動物の食料となり、その血肉に染み込んで魔獣へと変貌させる。食料とならずに済んだ場合でも、そのまま腐れば、周囲に瘴気を撒き散らして大地を腐食させ、生き物の寄り付かぬ土地と変貌させてしまう。
食べられもせず、腐りもしなかった“脱走者”は、自らの気配を消し、徐々に身体を回復させる。
行動可能なまでに回復すると、それは“脱走者”ではなくなる
それは世界の脅威となる“神の敵”の誕生を意味する。
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近