The SevenDays-War(黒)
「同じ問いを返そう。なぜ知っている?」
「アタシはポポマ。ここらでは蛮族と呼ばれてる、エルセント人とは違う種の人間だよ。アンタが連れてきたあの子もそうさ」
「ポポマとは?」
ルドラは質問を重ねる。
「アタシは大森林から連れて来られたのさ。狩りにあったんだよ。あの子も同じ」
ユノフィアは奥で眠る少女に視線を送った。
「大森林? 東にある森のことか?」
「違う。王都の南西に広がる森だよ。“蛮族の森”なんて呼ばれてるけどね」
ルドラに視線を戻したユノフィアは、いつの間にか手にしていたキセルを、その艶かしい唇に咥えた。
「頼みたいことが増えた」
「まだ面倒事を押し付ける気かい?」
「そこに連れて行ってくれ」
唐突な申し出に、ユノフィアはキセルを落としそうになる。
「その頼みは聞いてやれない。アタシはこの宿場を出られないから」
ユノフィアの声が、表情が、深い悲しみに沈む。
「なぜ?」
「言っただろ? アタシは捕まってるんだよ。とっくの昔に慣れちまったけどさ」
それは、どうにもならぬ現実から目を背けるため、自分に言い聞かせている言葉だ。毎夜毎夜、これが悪い夢であるようにと願いながら、訪れた朝の光明の中で「とっくの昔に慣れちまってるよ」と呟く。ユノフィアは絶望することにも慣れてしまっていた。
「戻りたいとは思わないのか?」
思わないはずなどなく、思わない夜もない。
ユノフィアは、咽元まで上がってきた本心を、歯を食い縛って飲み下した。声に出したところで霧散するだけ。忘れぬために刻み込むのだ。魂に。
そうしてユノフィアは決意する。自分と同じ境遇に陥るポポマを出さぬため、自分がここで犠牲になろうと。多くの男を虜にし、自分以外は誰も目に映らぬようにしてやろう。
ユノフィアは、自ら牢獄の内側にも鍵を取り付けたのだ。
「閉じ込められているではないのか?」
「宿場を出られないってだけで、男も酒も食べ物も、何にも不自由ないしね。森にいた頃とは大違い」
閉じ込められているではなく、自分の意思でここにいる。それが、ユノフィアを支える唯一にして最大の柱。
それさえあれば、なんだってできる。
自分の頬を流れる涙に気付かぬ振りをするなど、お手の物だ。
「お前を攫って行くことにする」
そう言って立ち上がったルドラは、ユノフィアの返事を必要としていなかった。
「アタシはポポマ。ここらでは蛮族と呼ばれてる、エルセント人とは違う種の人間だよ。アンタが連れてきたあの子もそうさ」
「ポポマとは?」
ルドラは質問を重ねる。
「アタシは大森林から連れて来られたのさ。狩りにあったんだよ。あの子も同じ」
ユノフィアは奥で眠る少女に視線を送った。
「大森林? 東にある森のことか?」
「違う。王都の南西に広がる森だよ。“蛮族の森”なんて呼ばれてるけどね」
ルドラに視線を戻したユノフィアは、いつの間にか手にしていたキセルを、その艶かしい唇に咥えた。
「頼みたいことが増えた」
「まだ面倒事を押し付ける気かい?」
「そこに連れて行ってくれ」
唐突な申し出に、ユノフィアはキセルを落としそうになる。
「その頼みは聞いてやれない。アタシはこの宿場を出られないから」
ユノフィアの声が、表情が、深い悲しみに沈む。
「なぜ?」
「言っただろ? アタシは捕まってるんだよ。とっくの昔に慣れちまったけどさ」
それは、どうにもならぬ現実から目を背けるため、自分に言い聞かせている言葉だ。毎夜毎夜、これが悪い夢であるようにと願いながら、訪れた朝の光明の中で「とっくの昔に慣れちまってるよ」と呟く。ユノフィアは絶望することにも慣れてしまっていた。
「戻りたいとは思わないのか?」
思わないはずなどなく、思わない夜もない。
ユノフィアは、咽元まで上がってきた本心を、歯を食い縛って飲み下した。声に出したところで霧散するだけ。忘れぬために刻み込むのだ。魂に。
そうしてユノフィアは決意する。自分と同じ境遇に陥るポポマを出さぬため、自分がここで犠牲になろうと。多くの男を虜にし、自分以外は誰も目に映らぬようにしてやろう。
ユノフィアは、自ら牢獄の内側にも鍵を取り付けたのだ。
「閉じ込められているではないのか?」
「宿場を出られないってだけで、男も酒も食べ物も、何にも不自由ないしね。森にいた頃とは大違い」
閉じ込められているではなく、自分の意思でここにいる。それが、ユノフィアを支える唯一にして最大の柱。
それさえあれば、なんだってできる。
自分の頬を流れる涙に気付かぬ振りをするなど、お手の物だ。
「お前を攫って行くことにする」
そう言って立ち上がったルドラは、ユノフィアの返事を必要としていなかった。
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近