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The SevenDays-War(黒)

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(四) 破られた扉と開かれぬ門


 夜の帳が周囲を包む。
 ルドラは、気を失ったままの少女を抱え、宿場の遊女を訪ねた。明るい笑顔で登場した遊女は、途端にその表情を曇らせたことは言うまでもない。
「アンタねぇ、ここは子供を連れてくるところじゃないんだよ?」
 大きな寝台に少女を寝かせて一息ついた後に、困り顔の遊女はそう言った。
「それはすまないな。しかし、約束を破るわけにはいかない」
「ま、約束したのはアタシのほうだしね。来てくれて嬉しいよ。アタシはユノフィア、ユーノって呼ばれてる。今後も贔屓にしとくれよ」
 ユノフィアは盃を差しだして酒を勧めた。
「それは止めておこう」
 ルドラは受け取った盃を膳に戻す。
 テーブルには酒の入った陶器瓶と二つの盃。それ以外には何もない。
「あら、下戸なのかい? 似合わないねぇ。その身体は見掛け倒しなのかい? 見たところ南方人みたいだけど、下戸の南方人には初めて会ったよ」
 浅黒い肌は南方人の特徴であり、南方人はエルセント人に比べるとやや身体能力に長ける。大酒飲み、大飯食らいが多いのも特徴の一つだ。
 子供を連れ込む、酒は飲まない、この店のタブーを二つも破ったルドラに対し、ユノフィアは皮肉をたっぷり込めた言葉をぶつける。
「ユノフィア……か。挫けぬ心、曲げぬ信念。いい名前だ」
「……アタシの名前の意味、誰に聞いたのさ?」
「ただ知っていた、それだけのことだ」
「へぇ……」
 ユノフィアの笑みは、その意味するところを変える。
「あの子、つい先日やってきたお客さんが連れてた子にそっくり」
 含みを込めた笑みを見せる。
 ルドラに対する好奇心に負けて、駆け引きを楽しむような遊び心が完全に隠れてしまっていた彼女は、あっさりと手の内を明かした。
「その客のことを聞かせてもらいたいのだ」
「アタシはアンタのことを知りたいね」
 ユノフィアは椅子から立ち上がり、媚を含んだ猫撫で声を甘く奏でつつ、ルドラの背後に回る。
「ガーランド・アレックスルドラ。それが名だ」
 微塵の変動も見せずに答えるルドラに不満を感じたのか、ユノフィアは足早に椅子に戻る。
「アタシの名前は、千年も昔に滅んだ国の言葉なんだよ。エルセント人は、誰一人としてその国の言葉を知らない。そんな国があったことさえもね。アンタ何者?」
作品名:The SevenDays-War(黒) 作家名:村崎右近